生活保護を脱し、フルタイムで自立を果たしたはずが、かえって生活苦に陥ってしまう――。一定の収入を得ているにもかかわらず、なぜ困窮する状況が生じるのでしょうか。ある女性の事例から、働いても報われにくい実態について見ていきます。
「もう働きたくない…」生活保護から自立を目指した32歳母、〈フルタイムで月収21万円〉のはずが生活苦の謎 ※写真はイメージです/PIXTA

「月収21万円なら大丈夫」…生活保護を抜けた32歳母

東京都内で小学生の娘と暮らす佐藤美咲さん(32歳・仮名)。数年前、夫との離婚を機に生活保護を利用することになりました。当時、娘はまだ幼く、フルタイムで働くことが難しかったためです。

 

厚生労働省『被保護者調査(令和8年6月分概数)結果の概要』によると、同月の被保護実世帯数164万2,778世帯のうち、母子世帯は5万4,953世帯に上ります。美咲さんのように離婚を機に生活保護を利用し始める世帯は多く存在しますが、その支援環境や家計の実態は決して潤沢なものではありません。

 

生活保護は最低限度の生活を保障する制度であるため、支給される保護費だけで子育てをしながら日々の暮らしを維持していくには厳しいやりくりが求められます。制度に守られているという安心感よりも、毎月の生計への焦りなど、常に精神的・経済的な逼迫感を抱えながら葛藤する受給者は少なくありません。美咲さんもそのひとり。

 

「生活保護を受けていれば安心、という感覚はありませんでした。毎月、余裕なんてなかったです」

 

美咲さんが暮らしていたのは、家賃5万3,000円の賃貸アパート。地域と世帯人数に応じた住宅扶助の範囲内に収まる部屋を選び、生活を維持していました。

 

日々の生活費も、決して潤沢ではありません。食費を抑え、衣類は必要なときだけ買う。娘に「これが欲しい」と言われても、すぐには買えないこともありました。それでも、家賃については住宅扶助があり、美咲さん自身が病院にかかる際には医療扶助が利用できました。娘には児童手当もありました。

 

「贅沢はできません。でも、家賃を払ったら、もう何も残らないという怖さはありませんでした」

 

転機になったのは、娘の成長でした。小学校に上がり、美咲さんもフルタイムで働けるようになります。見つけたのは、月収21万円の事務職でした。

 

「正直、すごくうれしかったです。21万円もあれば、生活保護を抜けても、今よりずっと楽になると思いました」

 

採用が決まった日、美咲さんは娘に言いました。

 

「お母さん、今度から毎日会社に行くよ」

 

生活保護を抜けることに、不安より期待のほうが大きかったといいます。ところが、数カ月後。美咲さんは、まったく違うことを考えるようになっていました。

 

「こんなはずじゃなかった、と思いました」