転勤のたびに単身赴任を繰り返していた夫婦。子どもが独立したあと、妻は転勤先への帯同を希望しました。そこで起こった想定外の出来事とは。ある夫婦の事例から、誰にでも起こり得る「転居に伴うリスク」をみていきます。
「もう、帰りたい…」〈年収980万円・50歳夫〉の転勤に初帯同の妻…半年後、訪ねた娘が息をのんだ「変わり果てた姿」 ※写真はイメージです/PIXTA

「お母さん、ちゃんと食べてる?」…久々に訪ねた娘が絶句

ある日、長女の彩花さんが久しぶりに電話をすると、母親は以前より口数が少なくなっていました。

 

「お母さん、最近どう?」

「別に。普通よ」

「お父さんは?」

「仕事。いつもいない」

 

それ以上、話は続きません。美紀さんの場合、自ら望んで仕事を辞めたわけではありませんでした。それでも、生活や人間関係を一から作り直すことになりました。

 

半年後。彩花さんは、母親の誕生日に合わせて転勤先の家を訪ねました。玄関を開けた瞬間、彩花さんは母親の姿を見て言葉を失いました。髪は白髪が目立ち、以前より体重も落ちています。

 

「お母さん、ちゃんと食べてる?」

 

そう聞くと、美紀さんは少し黙ってから答えました。

 

「一人で食べても、何を食べてもおいしくないのよ」

 

さらに彩花さんが気になったのは、母親の生活リズムでした。朝は10時ごろまで寝ています。昼食を抜くこともあります。外出は週に2、3回程度。以前楽しみにしていた友人との食事もなくなっていました。そして、直樹さんが帰宅すると、夫婦の間で言い争いが増えていたといいます。

 

「あなたは仕事があるからいいよね」

「俺だって好きで忙しくしているわけじゃない」

 

また、彩花さんが東京の自宅に帰ったあと、美紀さんから電話がありました。

 

「もう、東京に帰りたい。何のためにここにいるのか、わからない」

 

結局、美紀さんは東京に戻ることになりました。広い一軒家での一人暮らしは寂しいものの、たまの週末には2人の娘が来てくれます。直樹さんも1か月〜2か月に1度は、帰ってきてくれます。

 

「お金だけで考えたら、3年間一緒に住んだほうが安かったと思います。でも耐えられませんでした」

 

内閣府『令和7年 人々のつながりに関する基礎調査』によると、女性全体の3.7%が孤独感を「しばしばある・常にある」と回答しています。同調査では、孤独感に強く影響した出来事として「転居」を挙げた人が3.4%(孤独感がある人では6.0%)に上り、さらに、誰かと一緒に食事をする機会が「ほとんどない」と答えた人ほど孤独感が高い傾向が示されています。

 

見知らぬ土地への転居や、多忙な家族とのすれ違いによる「孤食」の増加は、主婦層が社会から取り残されたような強い孤独感を抱く大きな要因となります。お金では測れない心の健康を守るためにも、新たな地域社会との接点づくりや家族のサポートが不可欠です。

 

[参考資料]

株式会社パーソル総合研究所『「転勤に関する定量調査」を発表 就活生・社会人の半数が転勤のある会社への応募・入社を回避 基本給の30%以上の手当があっても「転勤を受け入れない」が4割弱』