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「まだあるから」母の言葉に、娘は違和感を覚えた
「お母さん、これ、いつ買ったの?」
79歳の佐藤和子さん(仮名)の実家を訪ねた長女・陽子さん(仮名・52歳)は、洗面所の棚を開けて驚きました。未開封の洗剤やトイレットペーパー、ティッシュなどが、同じものばかり何個も並んでいたのです。
和子さんは、夫を6年前に亡くしてから一人暮らし。月約14万円の年金を受け取り、住宅ローンを完済した戸建てで暮らしています。
陽子さんは電車で1時間半ほどの場所に住んでおり、母とは週に何度か電話で話していました。
「元気?」
「うん、元気。特に変わったことはないよ」
電話ではいつもそう答える母。実際、病院にも一人で通い、近所の友人とも付き合いがあります。陽子さんも、母がそれほど生活に困っているとは考えていませんでした。
その日、陽子さんが実家を訪れたのは、母の誕生日が近かったからです。昼食を一緒に食べたあと、陽子さんが「何か買ってくるものある?」と尋ねると、和子さんは「大丈夫。まだいろいろあるから」と答えました。
そのとき、陽子さんは「いろいろ」が何を指しているのか気になりました。洗面所を見ると、同じメーカーの洗剤が5本。トイレットペーパーも大量にあります。キッチンの棚には、乾麺や缶詰がいくつも並んでいました。
「こんなに買って、使い切れるの?」
「安いときに買っておいたの。腐らないものならいいでしょう」
ところが、冷蔵庫を見ると、生鮮食品は少量しかありません。
以前は母が近所のスーパーへ出かけ、野菜や魚を買って料理をしていました。しかし現在は、買い物に行くのは週1回程度。重いものを持つのが大変になり、日用品をまとめて買うようになっていたのです。
陽子さんが気になったのは、物が多いことだけではありませんでした。
「お母さん、最近、スーパーに行くの減った?」
そう聞くと、和子さんは少し考えてから答えました。
「うん。行っても疲れるからね」
79歳という年齢を考えれば、買い物が負担になることは珍しくありません。内閣府『令和8年版高齢社会白書』の調査によると、日常のちょっとした困りごとが生じた際、同居の家族以外に「頼れる人がいない」と回答した日本の65歳以上の高齢者は15.3%に上ります。さらに近所付き合いについても「付き合いがない」と答えた人が17.4%存在し、他国と比べても周囲に頼りにくい環境が浮き彫りになっています。
単身の高齢者にとって、買い物は現役世代にはわからないほど負担です。スーパーなどに歩いて往復する、重い荷物を運ぶ――大きな負担から、買い物から遠ざかるケースも少なくありません。和子さんの場合も、「節約したいから買い物に行かない」という単純な話ではなかったのです。