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「一緒に行く」と決めた妻
「今回は、単身赴任にはしないでほしい」
そう夫に伝えたのは、妻・美紀さん(仮名・49歳)でした。夫の内藤直樹さん(仮名・50歳)は、東京都内のメーカーに勤務しています。年収は980万円。これまで転勤のたびに単身赴任を選んできました。ところが50歳を目前にして、会社から地方支社への転勤を命じられます。任期は3年の予定でした。
長女の彩花さん(仮名・24歳)はすでに独立。次女も大学を卒業して就職しています。夫が単身赴任したら、美紀さんもひとりです。
自宅には住宅ローンが残っていました。残高は約1,680万円。毎月の返済は11万2,000円です。直樹さんの転勤先では会社が借り上げ社宅を用意してくれるため、家賃負担は月2万円程度。東京の自宅はそのまま維持することにしました。
家計は決して苦しくありません。直樹さんの手取りは月約52万円。美紀さんはパートで月8万円ほどを得ていました。住宅ローンを払っても、食費や光熱費、通信費などを含めた生活費は月25万円前後です。月8万円のパート代がなくなっても大丈夫だろうと考えていました。
こうして転勤先へ向かいましたが、そこでの生活は想定外の連続でした。転勤先では、直樹さんは朝7時半に家を出ます。帰宅は早くても午後8時。繁忙期には午後10時を過ぎました。
美紀さんは東京生まれ、東京育ち。子どものころからそばに知り合いがいる――という環境でした。ところが、転勤先では土地勘がありません。知人もいません。仕事を探そうとしましたが、3年後には東京へ戻る予定です。長期勤務を前提とした求人には応募しづらく、結局、働くことを諦めました。
最初の1か月目は、買い物をしたり、近所を歩いたりしていました。2ヵ月目になると、それもしなくなりました。
パーソル総合研究所の調査によると、就活生や社会人の5割が転勤のある会社を回避し、基本給30%以上の手当があっても4割弱が転勤を拒否すると回答しています。家賃補助等の金銭的配慮だけでは、配偶者の仕事や生活を失うダメージは補いきれないという、働く側のリアルな実態があります。