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「106万円の壁」がなくなり、妻の働き方が変わる
「だったら、もっと働こうかな」
48歳のパート主婦、田中陽子さん(仮名)の言葉に、夫の田中大輔さん(50歳・仮名)はすぐに返事ができませんでした。
大輔さんの月収は約45万円。陽子さんはこれまで、社会保険の負担などを意識し、勤務時間を抑えてきました。
ところが2026年10月、「106万円の壁」と呼ばれてきた賃金要件が撤廃されたのです。
2026年10月1日から、これまで短時間労働者が社会保険に加入する際の要件の一つだった「所定内賃金が月額8.8万円以上」という賃金要件がなくなりました。今後は週の所定労働時間20時間以上などの条件を満たすかどうかが重要になります。社会保険への加入によって、将来の厚生年金などの保障につながる面もあります。
陽子さんは、この制度変更を知ってから勤務時間を増やすことを考えるようになりました。
「今までより気にせず働けるなら、もう少し収入を増やしたい。老後のためにも貯めておきたい」
総務省『労働力調査(基本集計)』によると、2025年平均の女性就業者数は3,126万人(前年比44万人増)に達し、15〜64歳の女性就業率は75.3%(同1.2ポイント上昇)と高い水準となっています。共働きや女性の就労が広がる一方、女性雇用者(役員除く2,791万人)の52.0%にあたる1,450万人が非正規の職員・従業員です。
同「詳細集計」によると、女性が非正規で働く理由は「自分の都合のよい時間に働きたいから」が529万人(37.3%)で最多を占め、「家計の補助・学費等を得たいから」の285万人(20.1%)を大きく上回ります。自身の自立や柔軟な働き方を重視する女性が増加しています。
夫婦の家計を考えれば、陽子さんの「もっと稼ぐ」という言葉は歓迎すべき話に聞こえます。しかし大輔さんは、素直に喜べませんでした。
「そんな……無理して働く必要はないだろ」
理由は、家計のことだけではありません。妻が自分で十分に稼げるようになったら、自分を必要としなくなるのではないか――そんな考えが頭をよぎったのです。
これまで大輔さんは、「自分が家族を支えている」という意識を強く持っていました。住宅ローンや子どもの教育費など、まとまった支出があれば、自分の収入から出すことが当然だと思っていたのです。
陽子さんの収入は、生活費の不足分を補うもの。そう考えていました。ところが、妻が勤務時間を増やし、収入を大きく伸ばすとなれば話は変わります。陽子さん自身の貯蓄が増える。厚生年金の加入期間も積み上がる。仕事を通じて人間関係も広がる。大輔さんには、それが「妻の自立」に見えました。