年金生活を送る親への仕送り。親恩に報いたい気持ちの一方で、自身の生活や将来への負担に悩む人は少なくありません。総務省の『家計調査報告〔家計収支編〕2025年平均結果』によると、65歳以上の単身無職世帯の月平均可処分所得は11万8,465円、消費支出は14万8,445円で、平均では毎月約3万円の赤字となっています。公的年金などの収入だけでは毎日の暮らしを維持することが難しく、子どもからの金銭的支援に頼らざるを得ない高齢単身者が多いのが現実です。しかし、親を想って始めた仕送りが、気づけば自分の人生の選択肢を奪う「呪縛」になってしまうこともあります。42歳女性の事例から、親子間のマネーギャップと親の自立の難しさを探ります。※事例の人物名はすべて仮名です。
「親不孝者です…」実家へ仕送り月15万円。上場企業に勤める41歳独身ひとりっ子、年金月8万円・66歳母から貼られた〈レッテル〉 (※写真はイメージです/PIXTA)

昇進のたびに増やした仕送り…現在は月15万円を毎月実家へ

カオルさんは独身の42歳。ひとりっ子です。母のソウコさんはカオルさんが高校生のころに離婚し、女手一つで苦労しながらカオルさんを育て上げてくれました。離婚時、母は有責配偶者である父を家から追い出し、現在もその家で暮らしています。

 

ソウコさんの現在の収入は、月約8万円の国民年金のみ。年金だけでは固定費を支払うと食費すら満足に残らないのが現実です。

 

「苦労した母を支えたい」という思いから、カオルさんは22歳で就職した当初、月3万円の仕送りからスタートしました。その後、努力が実を結んで社内で昇進し、給料が増えるたびに母から「もう少しくれない?」「今月苦しくてね」と援助増額の打診があり、仕送り額を増やしていきました。そして41歳の現在、仕送り額は毎月15万円にまで達しています。

 

20年間の累計額は2,000万円を軽く超えます。上場企業勤めとはいえ、都内での一人暮らしで自身の老後不安もあるなか毎月15万円を送り続けることは、カオルさんの生活にとっても決して小さくない圧迫となっていました。

「仕送りを減らしたい」と申し出ると…

カオルさんは、40歳の節目にずっと心に温めてきた夢にチャレンジすることにしました。いまの会社での仕事にやりがいは感じつつも、さらにやりたい事業があり、さらなるキャリアアップを目指してMBAへ挑戦したいという思いがあったのです。

 

「年齢的にも、挑戦するなら最後のチャンス」

 

仕事の合間を縫って猛勉強を重ねたカオルさんは、1年後にMBAの試験に合格しました。しかし、これから2年間は業務後の通学のため残業ができなくなり、手取り収入が減るうえに、学費や教材費などの出費が重なります。

 

決意を固めたカオルさんは実家のソウコさんに電話をかけ、丁寧に事情を説明しました。

 

「お母さん、実はMBAの試験に受かったの。これから2年間は通学で残業ができなくなって収入も減るし、学費もかかるんだ。申し訳ないんだけど、この2年間だけ仕送りを3万円くらい減らさせてもらえないかな」

 

すると電話の向こうから返ってきたのは、祝福でも理解でもなく、ソウコさんの激しい怒りと拒絶の声でした。

 

「上場企業で働いていて給料だってたくさんあるでしょう? ひとりっ子のくせに結婚もせず、孫の顔も見せない。そのうえ、月8万円ぽっちの年金でカツカツで生きている母親の仕送りを削るっていうの? あんたは本当の親不孝者ね!」

 

ソウコさんは、娘からの仕送りをあてに生活設計を立てていました。月15万円という援助は「確保されて当然の権利」となっており、自分のやりたいことを優先して仕送りを減らそうとするカオルさんは、身勝手な「親不孝者」に映ったようです。

 

受話器の向こうで一方的に電話を切られたカオルさんは、「『おめでとう』すらいってくれないんだね」と深い悲しみと悔しさが込み上げてきました。