(※写真はイメージです/PIXTA)
管理会社からの説明で知った「厳しい現実」
ある日、ポストに一枚の封筒が入っていました。そこに書かれていたのは、「長期修繕計画見直しに関する住民説明会」。美和子さんは「住み始めたばかりだから、一応出ておこう」くらいの気持ちで参加を決めました。しかし思いもよらない現実を知ることになります。
管理会社の担当者は、スクリーンに資料を映しながら説明を始めました。
「建築資材や人件費の高騰により、長期修繕計画を全面的に見直しました」
外壁改修、防水工事、給排水管の更新、エレベーター設備の更新――。どの工事も当初の想定を大きく上回る見積額になったといいます。続いて映し出された数字を見て、美和子さんは思わず資料を見直しました。
「修繕積立金不足額 約2億4,000万円」
全48戸で負担すると、1戸あたり約500万円の不足になります。
「……えっ?」
あまりの金額に、言葉を失ってしまいました。「一戸あたり500万円」という数字が頭の中で反すいします。
(無理、無理、無理、500万円なんて払えない……)
隣に座っていた男性は「やっぱり、この数字になったか」とつぶやきました。周囲を見ると、驚いている人はほとんどいません。説明が終わったあと、美和子さんはその男性に声を掛けました。
「皆さん、ご存じだったんですか」
男性は苦笑しながら答えます。
「去年からずっと総会で揉めている話ですよ。最近入居された方は知らなかったでしょうけど」
このような修繕積立金の不足は、多くのマンションが直面する深刻な問題です。国土交通省『令和5年度マンション総合調査結果』によると、計画上の積立額に対して現在の積立額が「不足している」と回答した管理組合は36.6%に上り、そのうち11.7%では不足割合が20%を超えています。
また、管理組合が抱える将来への不安として「修繕積立金の不足」を挙げた割合は39.6%に達しており、資金不足は美和子さんのマンションに限ったことではありません。購入時に「共用部分の維持管理状況」を考慮した区分所有者はわずか12.0%にとどまるなど、事前の確認不足もこうした事態を招く一因となっています。
説明会から1週間後、管理組合は住民向けに追加の資料を配布しました。今後の選択肢は、①修繕積立金を段階的に引き上げる ②区分所有者から一時金を徴収する ③工事内容を見直し、一部を先送りする、の3つ。しかし、どの案にも反対意見が相次ぎました。
臨時総会では、70代の男性が声を荒らげます。
「年金暮らしに500万円なんて払えるわけがない」
すると別の住民も続きました。
「工事を先送りしたら、資産価値が下がるでしょう」
「いや、値上げされたら毎月の生活が成り立たない」
数日後、美和子さんは長男に電話で相談しました。事情を聞いた長男は、少し考えてから「それなら、売ってしまえばいいんじゃない?」と言いました。実は美和子さんも同じことを考えていました。まだ住み始めて間もないのです。駅から近く、立地も悪くありません。ところが、査定の結果は期待とは異なるものでした。
「立地は魅力的。ただ、修繕積立金の不足や今後の負担が購入希望者に伝わると、価格交渉を受ける可能性があります」
管理組合が長期修繕計画を見直していることや、多額の負担が見込まれていることは、購入希望者も確認する事項です。条件次第では売却できるものの、購入価格と同程度で売れる保証はありません。
その後、管理組合では修繕積立金を月1万4,000円から2万5,000円程度まで引き上げる案を軸に検討が続けられることになりました。一時金についても、工事内容を精査したうえで必要性を改めて判断する方針です。
老後の住まい選びでは、マンションであれば駅からの距離や室内の設備だけではなく、「この先も維持していけるのか」という視点が、これまで以上に重要になってきます。