厚生労働省『令和6年簡易生命表』によると、65歳時点の平均余命は男性で20年弱、女性で25年弱です。長い老後を夫婦でどう過ごすかが課題となるなか、価値観の変化から離婚を選ぶ高齢者もいます。ある夫婦の事例から、その実態をみていきます。
「四六時中、妻と一緒にいるのは無理でした」年金月18万円・66歳男性、離婚後に暮らす「家賃3.2万円」の市営団地で独りかみしめる幸せ (※写真はイメージです/PIXTA)

夫婦だけの時間で見えた現実

転機になったのは、子どもの独立と佐藤さんの定年でした。仕事を辞め、家にいる時間が増えました。すると、それまで子育てや仕事に向けられていた時間が、夫婦2人の時間になりました。そこで改めて感じたのが、生活リズムや価値観の違いでした。

 

「朝起きる時間も違う。休日の過ごし方も違う。テレビを見る番組も違う。若い頃なら、お互いに合わせればいいと思えました。でも、退職して毎日一緒になると、積み重なっていた違和感が大きくなりました」

 

佐藤さんは、妻との関係について何度も考えたといいます。離婚すれば、経済的な負担が増えることは分かっていました。夫婦で暮らせば、生活費を分担できます。しかし、一人で暮らせば、家賃も食費もすべて自分で負担しなければなりません。

 

厚生労働省『令和6年簡易生命表』によると、65歳男性の平均余命は19.53年です。年金を受け取り始めてからの人生、まだ約20年続く可能性があります。その間、違和感を抱えながら生きていく。それがお互いのためにいいのか——離婚を切り出したのは、徹さんからでした。「自分のわがままに付き合ってもらうのだから、すべての預貯金と家は妻に」と申し出たといいます。

 

「妻からは『今さら離婚してどうするのか』と言われました。当然だと思います。38年一緒にいた相手ですから」

 

それでも、最後は別々の道を選びました。最終的に、家を出て新生活をスタートさせるための50万円のほかは、家も含めてすべて妻に譲りました。当初は民間のアパートを借りていましたが、家賃を払い続けることを考えて市営団地に申し込み、この春から入居が決まりました。

 

「今はアルバイト代が月に10万〜15万円ほどある。それがなくなって年金だけになっても、家賃は払っていける。安心です」

 

料理は大の苦手ですが、将来のことを考えて、基本的に自炊をしています。毎回のように「失敗した……」と言いながら食事をしているといいます。

 

「それでも、どこか居心地の悪さを感じながら暮らすよりも楽しい」

 

将来、大病を患ったり、介護が必要になったりするかもしれない心配もあります。

 

「それでも、我慢して生きていくよりいい」

 

すべてが自分次第。お金がなくても、将来が不安でも、今が幸せ——。「これが正しい選択だったのかは、最後にならないと分からないと思います」と話しながらも、現在の生活を変えるつもりはないと佐藤さんは笑います。