(※写真はイメージです/PIXTA)
子どものために続けた38年
「妻と四六時中、一緒にいる生活は無理でした。嫌いになったわけではありません。でも、これから20年近くを、ただ我慢して過ごすことはできなかったんです」
そう話すのは、東京都内の市営団地で一人暮らしをする佐藤徹さん(66歳・仮名)です。現在の収入は公的年金のみで月約18万円。住まいは築40年以上の市営団地で、家賃は月3万2,000円です。部屋は2DK。以前暮らしていた持ち家と比べれば、広さも設備も大きく違います。
それでも、佐藤さんは現在の生活を選びました。60歳定年を迎えてから、しばらく経ってから離婚したのです。きっかけは定年退職後の夫婦関係だけではありませんでした。むしろ、夫婦の価値観の違いは、子どもが生まれた頃から少しずつ表れていたといいます。
「子どもの教育方針で、よく口げんかになりました」
妻は、将来困らないように厳しく育てたいという考えでした。一方、佐藤さんは、子ども自身の興味や選択を尊重したいと思っていました。
「どちらが間違っていたという話ではないんです。ただ、子どもに対する考え方が違った。そこから、お互いの価値観の違いが見えるようになりました」
進学先の選択、習い事を続けるかどうか、家庭内のルールをどうするか——。一つひとつは小さな問題でした。しかし、そうした場面のたびに、夫婦の考え方の違いが浮き彫りになりました。
それでも、当時の佐藤さんには離婚という選択肢はありませんでした。
「子どもがいる以上、夫婦の問題だけで動くわけにはいかないと思っていました。自分が我慢すればいい。家族が成り立つなら、それでいいと思っていました」
夫婦関係に不満があっても、親としての役割を優先した。それが佐藤さんの考えでした。そして子どもが独立するまで、2人は家庭を維持しました。周囲から見れば、普通の夫婦だったといいます。
国立社会保障・人口問題研究所『第7回全国家庭動向調査』によると、「自分達のことを多少犠牲にしても、子どものことを優先すべきだ」という考えに賛成する妻の割合は81.5%に上ります。
佐藤さんのように、価値観の違いに悩みつつも親の役割を優先し、我慢して家庭を維持する夫婦は珍しくないでしょう。しかし、子どもが独立してその役割を終え、定年により夫婦2人だけの時間が増えたとき、長年抑え込んでいた不満が限界に達し、熟年離婚を選択するケースもあるのです。