(※写真はイメージです/PIXTA)
父の本音
「お父さん、ここで一人で大丈夫なの?」
冷房をつけない部屋で、1日2食で、「大丈夫」と言い続けていた父が、カオルさんにはとても「大丈夫」には見えませんでした。
マサフミさんはしばらく黙ってから「カオルに心配かけたくなかったんだよ」と言いました。半年間、LINEで「大丈夫だよ」と返し続けていた父の言葉の裏側を、ようやく知った夜でした。
そのあとも父との対話は続きました。これからの暮らしのこと、困ったときの相談先のこと、もし施設への入居が必要になった場合の費用について。答えはすぐには出ませんでしたが、父が一人で抱えていたものをやっと共有できた夜でした。
「大丈夫」の裏にある現実
厚生労働省「国民生活基礎調査」2024年分によれば、高齢者がいる世帯のうち単身世帯は32.7%。高齢者のいる世帯の3割強がひとり暮らしです。さらに国立社会保障・人口問題研究所の推計(2024年)では、65歳以上男性の単独世帯の割合は2020年の16.4%から2050年には26.1%に増加すると見込まれています。マサフミさんのような「一人暮らしの高齢男性」は、今後ますます増えていきます。
経済的な問題も深刻です。年金月13万円という水準で、家賃・光熱費・食費・医療費を賄うと、残る余裕はわずかです。総務省「家計調査(2025年平均)」によれば、65歳以上の単身無職世帯の消費支出は月平均約15万5,000円。年金13万円との差額は毎月2万円超になります。マサフミさんが冷房を我慢し、食事を1日2食にしているのは「節約」ではなく、こうした構造的な赤字への対応でもあります。
さらに見逃せないのが、高齢者の「我慢」の文化です。厚生労働省「人口動態統計」2024年によれば、熱中症で亡くなる人の8割以上が65歳以上の高齢者であり、体力が低下した高齢者や低所得の家庭でリスクが高いとされています。冷房を使わない独居高齢者の夏は、医療上の危険と隣り合わせです。しかし、子どもに心配をかけたくない世代の高齢者ほど、そのリスクを自分の胸にしまい込む傾向があります。
これからの父との関わり
カオルさんはその後、まずは父の団地があるエリアの地域包括支援センターへと足を運び、専門家に相談を持ちかけることに。介護保険サービス(訪問介護など)を利用するためには、まず市区町村の窓口へ要介護・要支援認定を申請する必要があります。カオルさんはセンターの職員にサポートしてもらいながら、この認定申請の手続きから進めることにしました。
無事に認定が下りたあかつきには、ケアマネジャーと相談して週に一度、ケアプランに沿った訪問介護を導入してもらう予定です。プロの手による食事の見守りや部屋の掃除などの補助が入るようになれば、父が誰にも気づかれないまま限界まで我慢し、孤立するリスクを大幅に減らすことができます。
また、冷房費については、カオルさんが毎月補填する形で「使っていいから」と父に伝えました。「半年に一度じゃなくて、月に一度は来るようにしようと決めました」とカオルさんは言います。
「『大丈夫』って言っていたとしても、実際に行かないとわからないことがあることを痛感しました。エアコンも見張りに行かないと、使わないと思うのでまだ心配です」
離れて暮らす親を定期的に訪問し、家計の実情をきちんと共有することで防げる悲劇もあります。使える公的サービスを把握し、年金生活の余裕のなさを、家族は早めに知っておきましょう。
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