離れて暮らす親が「大丈夫だよ」と言うとき、その言葉をどこまで信じていいのか。電話越しの声は元気そうでも、実際に部屋のドアを開けてみるまで、本当のことはわかりません。※事例の人物名はすべて仮名です。
「お父さん、大丈夫?」「大丈夫、大丈夫」LINEで連絡を取り合っていたが…年金月13万円・78歳父の公営団地を訪ねた52歳娘が、初めて〈親の懐事情〉を聴いた真夏の夜 (※写真はイメージです/PIXTA)

蒸し風呂のような部屋で生活していた父

ジメジメとした暑い夏の週末、カオルさん(52歳)は78歳になった父・マサフミさんのもとを訪ねました。母はすでに他界し、父は公営住宅の団地に一人で住んでいます。ここ数ヵ月、父からの連絡がめっきり減ったことが気になっていたところ。「元気にしてる?」とLINEで話しても「大丈夫だよ」の一言だけが返ってくる日が続いていました。

 

玄関のドアを開けて、カオルさんは思わず声を上げました。部屋が、蒸し風呂のように暑いのです。室内は冷房がついていません。カオルさんは部屋の中を見渡しました。テーブルの上には食べかけの惣菜パンが一つ。流しには茶碗が一枚。壁に設置されたエアコンは、長いあいだ使用されていないようで、黒カビのようなものが外側部分にまで広がっています。

 

「お父さん、冷房は?」と聞くと、マサフミさんは「電気代がもったいないから」と答えます。78歳の高齢者が、真夏に冷房なしに暮らしていました。

「ひとりだから、半分で済む」

カオルさんが驚いたのは、部屋の暑さだけではありませんでした。冷蔵庫を開けると、入っていたのは卵、納豆、豆腐、それと数本の発泡酒。父の体つきも、半年前より一回り小さくなっていました。

 

夕飯を一緒に食べながら話を聞くと、マサフミさんはぽつぽつと話しはじめました。

 

「一人だからな、そんなにたくさんいらない。1日2食あれば十分だ」「まだ我慢できる暑さだ」「掃除は週に一度まとめてやっている」

 

食後、カオルさんは父の通帳と家計の話を初めてきちんと聞きました。マサフミさんは元工場の作業員で、厚生年金と国民年金を合わせた月13万円が現在の唯一の収入です。内訳を聞いていくと、家賃が4万円、電気・ガス・水道代は節約して約1万3,000円、食費が3万円(1日1,000円以下を意識しているといいます)、医療費と薬代が1万2,000円、通信費が6,000円、残りは雑費。合わせると11万円を少し超える程度です。残る2万円弱が「万が一のとき」のための取り置きですが、去年洗濯機が壊れたときはそれでは足りず、貯蓄を崩したそうです。

 

「贅沢はしていないつもりだけどな」。マサフミさんはそう言いました。そのとおり、贅沢ではありません。ただ、余裕がないのです。