定年後も働く高齢者が増える一方で、再雇用後の職場になじめず悩む人も少なくありません。かつて管理職として組織を率いていた人ほど、その変化に戸惑うケースが見られます。再雇用後に居場所を見失った元部長の事例を通じて、「働き続ける時代」に求められる意識の転換について考えます。
「惨めです…」年収1,200万円・部下30人を率いた元部長、再雇用先で20代社員から「大手から来たのに使えない」と陰口を叩かれる毎日 (※写真はイメージです/PIXTA)

若手の上司「前職の話はNGです」

しかし、その後も状況は改善しませんでした。

 

会議で求められていない意見を長く話してしまう。

若手社員への指示口調が抜けない。

頼まれていない改善案を何度も提案する。

 

「これまでの経験を利用してもらいたかった」と佐々木さん。あくまでも「役に立ちたい」という気持ちが前提にあったのです。

 

一方で周囲は別の受け取り方をしていました。ある日、コピー機の前で書類を整理していたときのことです。近くにいた20代の社員同士の会話が耳に入りました。

 

「また説明しなきゃいけないのか」

「正直、あの人、全然仕事覚えないよね」

「大手から来たのにね、使えない」

 

ちょうどAIが導入されるタイミング。佐々木さんのようなシニア社員にどのように覚えてもらうか――会社としての課題でした。しかし当の本人には聞こえてはいけない会話だったのかもしれません。それでも、それが現実でした。以降、佐々木さんは職場で発言する回数は減っていきました。昼休みも一人で過ごすようになりました。

 

「前の会社では誰かが食事に誘ってくれた。でも今は誘われることもない。自分から入っていく勇気もありませんでした」

 

再雇用や再就職後の職場で起きる問題は、能力だけではありません。長年のキャリアによって形成された自己認識と、新しい職場で求められる役割との間に大きな差が生じることがあります。佐々木さんは転機となった出来事を振り返ります。入社から約1年後、30代の同僚からこういわれたそうです。

 

「佐々木さん、前職の話じゃなくて、今の仕事の話をしてくれると助かります」

 

厳しい言葉でした。しかし、それまで誰も正面から伝えてくれなかった内容でもありました。

 

「悔しかったですが、その通りだったと思います」

「前職のプライドは、しっかりと置いていくべきだった」

 

それ以降、佐々木さんは自分から前職の話をまったくしなくなりました。わからないことはメモを取り、年下の社員にも質問するようにしました。今では少しはコミュニケーションが円滑に済むようになったといいます。

 

定年後の働き方が長期化するなかで、問われるのは経験の多さだけではありません。新しい環境で学び直せるか、自分の立場を更新できるか。その姿勢が、第二の職業人生を左右するのかもしれません。