(※写真はイメージです/PIXTA)
父「兄さんを見習え」
「兄さんを見習え。物心ついたときから、そう言われてきたと思います」
山本和也さん(58歳・仮名)はそう振り返ります。神奈川県内の中小メーカーに勤める会社員。年収は約620万円。妻はパート勤務で年収180万円ほど。大学生の娘と3人暮らしです。住宅ローンは残り680万円。預貯金は夫婦合わせて約1,100万円です。
一方、3歳上の兄、達也さん(61歳・仮名)は難関国立大学を卒業し、大手企業へ就職。現在は都内で暮らしています。通知表も、進学も、就職も。比較の対象は常に兄でした。
「達也は学年トップだった」
「達也は親に心配をかけなかった」
「達也ならそんなことはしない」
父・昭さん(仮名・83歳)は悪気なく言っていたのでしょう。しかし和也さんにとっては違いました。何をやっても二番手。家族の中での立場は最初から決まっているように感じていたそうです。
社会人になってからも状況は変わりませんでした実家から車で20分の場所に家を購入し、月に数回は顔を出す。父母の通院にも付き添う。それでも親族が集まる席では、「達也は仕事が忙しいからな」「達也は責任ある立場だから」 という言葉が繰り返されました。近くにいる弟より、遠くにいる兄。和也さんは次第に何も言わなくなりました。
増え続ける役割
転機は昭さんが80歳になった頃です。母が軽い脳梗塞で入院しました。昭さんも運転免許を返納し、一気に生活の自由度が下がりました。
警察庁によると、2025年、65歳以上の運転免許証の自主返納率は平均1.85%。免許返納により、移動手段が限られ、家族の負担が大きくなることも珍しくありません。 和也さんの負担も急増しました。
食料品の買い物代行。 病院への送迎。 役所手続き。 実家の修繕手配――毎月の交通費や立替金は2万円から3万円ほど。年間では30万円を超えました。
兄・達也さんにも相談しました。すると返ってきたのは意外な言葉でした。
「近くに住んでるんだから、お前のほうが動きやすいだろ」
和也さんは電話を切ったあと、しばらく何も言えなかったと言います。父母の介護認定の手続きも進みました。
厚生労働省『介護保険事業状況報告(暫定)』によると、全国の要介護(要支援)認定者数は増加の一途を辿っており、令和8年3月現在、約735.9万人。介護離職や家族負担も社会問題になっています。
仕事と介護の両立は大変です。しかし、和也さんが苦しかったのは介護そのものではなく、感謝されないことだといいます。