定年後も働く高齢者が増える一方で、再雇用後の職場になじめず悩む人も少なくありません。かつて管理職として組織を率いていた人ほど、その変化に戸惑うケースが見られます。再雇用後に居場所を見失った元部長の事例を通じて、「働き続ける時代」に求められる意識の転換について考えます。
「惨めです…」年収1,200万円・部下30人を率いた元部長、再雇用先で20代社員から「大手から来たのに使えない」と陰口を叩かれる毎日 (※写真はイメージです/PIXTA)

元部長「簡単な仕事だと思った」

「定年後も働くこと」が珍しくない時代。しかし、雇用が続くことと、職場で自分の居場所を見つけられることは別の問題です。

 

厚生労働省『令和7年 高年齢者雇用状況等報告』によると、65歳までの雇用確保措置を実施している企業は99.9%に達しています。また、70歳までの就業確保措置を実施している企業も34.8%。中小企業では35.2%、大企業では29.5%。さらに内閣府『令和8年版高齢社会白書』では、65歳以上の就業者数は22年連続で増加しているとされています。高齢者が働き続けることは、すでに社会の前提となりつつあります。

 

一方で、長年培った立場や評価を手放せず、新しい環境に適応できない人もいます。佐々木浩一さん(63歳・仮名)も、そんな一人。

 

「定年前は大手メーカーで部長をしていました。部下は30人くらい。年収は1,200万円ほどでした」

 

佐々木さんは大学卒業後に就職した会社に40年近くも勤務しました。営業畑を歩み、50代で部長に昇進。複数の課を統括する立場となり、人事評価や予算管理も担当していました。

 

「会議に行けば発言を求められる立場でした。困ったことがあれば部下が相談に来る。自分が判断する側だったんです」

 

60歳で定年を迎えたあと、再雇用制度を利用して同じ会社に残る選択肢もありました。しかし給与水準が大きく下がることに抵抗感を覚え、別の中堅企業へ再就職しました。仕事は事務部門の補助業務。データ入力や書類作成、社内システムへの登録作業など、前職では部下に任せていたような仕事でした。

 

「正直にいえば、最初は簡単だと思っていました」

 

しかし、新しいシステムの操作を覚えられませんでした。作業手順を何度聞いても理解できず、入力ミスも繰り返しました。

 

直属の上司は29歳です。

 

「悪い人ではないんです。でも、私自身、指示されること自体に慣れていなかった」

 

ある日、作業の遅れを指摘された際、思わず「前の会社では、こんなこと、していなかったですよ」と言ってしまったとか。上司は少し間を置いて答えます。

 

「申し訳ありません。でも、ここではまず、今の業務を覚えていただく必要があります」

 

佐々木さんは、その言葉に反発を覚えたと振り返ります。

 

「自分の40年を否定されたような気がしたんです」