熟年離婚は今や珍しい話ではありません。長年の不満を抱えた末、退職金や年金分割制度を見据えて離婚を選ぶケースも増えています。しかし、その判断が思わぬ誤算につながることもあります。年金分割への期待を支えに60歳で離婚を決断した女性の事例を通じて、老後資金設計の見落としが招く現実をみていきます。
「今までありがとう。それじゃあ解散で」〈退職金2,500万円〉60歳定年夫、35年連れ添った妻との〈熟年離婚〉を選んだ理由

無理に夫婦でいることが幸せなのか?

離婚という言葉が初めて出たのは、定年の3年ほど前だったといいます。ある日、老後の住まいについて話していたときのことでした。

 

「お互い、やりたいことが違うよね」

 

由美さんがそう言うと、佐藤さんも同意しました。

 

「無理に合わせる必要もないかもしれない」

 

そこから何度も話し合いを重ねました。感情的な議論になったことはほとんどなかったといいます。

 

「嫌いになったわけじゃないんです」

 

由美さんはそう話します。

 

「ただ、夫婦として同じ家で暮らし続けることが、お互いにとって一番いい選択ではなかった。お互いの思いを尊重したんです」

 

最終的に2人が出した結論は、夫の定年を一区切りとして、それぞれ独立した生活を始めることでした。

 

「離婚というより、役割の終了に近い感覚でした」

 

佐藤さんはそう表現します。

退職金2,500万円と老後資金を整理する

離婚を決めたあと、2人が最も時間をかけたのは資産の整理でした。定年退職時に支給される退職金は約2,500万円。加えて預貯金や有価証券など、約4,000万円のほか、自宅不動産もありました。

 

「感情ではなく、理論的に決めていこうとしました」

 

佐藤さんはそう振り返ります。年金見込額を確認し、将来の生活費を試算しました。離婚後も双方が無理なく暮らせるかを何度も検証したといいます。自宅については売却せず、由美さんが住み続けることになりました。退職金や金融資産は、佐藤さん“4”に対し、由美さんは“6”で分割。将来、由美さんが受け取る年金が少ないことを考慮しての判断でした。

 

法務省『財産分与を中心とした離婚に関する実態についての調査』によると、離婚時に財産分与の取決めをした60代の割合は51.0%と、他の年代より高くなっています。また佐藤さん夫婦のように、財産分与の分け方を決める際に「(離婚後)経済面での生活の安定を考慮した」と回答した割合は18.2%。柔軟に財産を分けることも重要です。

 

「離婚して、夫婦の関係は終了しますが、家族であることに変わりはありません」と佐藤さん。由美さんも「将来的に困るようなことがあったら、お互い、助け合うつもりです。家族なので」と、どこまでも笑顔です。

 

定年は、多くの人にとって働き方、生き方を見直す節目。同時に、夫婦関係を見つめ直す機会にもなります。佐藤さん夫婦にとっては、長年の話し合いの末に決めた、新しい人生のスタートでした。