一人暮らしは危険…「老人ホーム」を選択する娘
「母を施設に入れて、周囲からは『良かったね』と言われるのですが、正解だったかどうか、わかりません」
そう話すのは、東京都内で夫と暮らす会社員の中田由紀子さん(54歳・仮名)。由紀子さんの母・佐藤和子さん(80歳・仮名)は夫を10年前に亡くし、地方で一人暮らし。遺族年金などを含めて月15万円ほどの収入で生活していました。
異変に気づいたのは2年前です。実家を訪れた際、冷蔵庫に同じ食材がいくつも入っていました。
「買ったことを忘れてしまうのよ」
母は笑っていましたが、その後も同じような出来事が続きました。ガスの消し忘れや通帳の紛失、同じ話を短時間で何度も繰り返すことも増えていきます。病院を受診すると、医師から認知症の初期段階の可能性を指摘されました。由紀子さんは仕事を続けながら週末ごとに実家へ通いました。
しかし、車で片道2時間以上。突発的な事態には対応ができません。
「このまま一人暮らしを続けるのは危険だと思いました」
地域包括支援センターやケアマネジャーにも相談し、介護サービスの利用を始めました。それでも不安は消えませんでした。
厚生労働省『令和5年度 介護保険事業状況報告(年報)』によると、要介護(要支援)認定者数は令和5年度末時点で708万人に上り、うち軽度(要支援1〜要介護2)の認定者が約66%を占めています。
また介護サービス受給者のうち、約69.2%が「居宅(在宅)サービス」を利用しており、「施設サービス」を利用している人は約15.8%にとどまります。家族が不安を抱えながらも在宅での介護を続けざるを得ないケースが多数派であることがわかります。
由紀子さんは仕事と介護の両立はこれ以上は無理であること、和子さんが一人暮らしを続けることも限界であることを考慮して、介護付き有料老人ホームへ入居させる決断をしました。入居一時金は100万円、月額利用料は約18万円。その他、月2万~3万円程度かかる算段です。年金だけでは足りず、和子さんの預貯金も活用する計画でした。
入居当日、母は何度も尋ねました。
「私はここに住むの?」
「そう。みんながいるし、職員さんもいるから安心だよ」
「家には帰れないの?」
由紀子さんは返事に詰まりました。母の安全を考えれば最善の選択だと思っていました。それでも、自宅へ戻る車の中で涙が止まらなかったといいます。