(※写真はイメージです/PIXTA)
限界を訴えた義妹への返信
そんな限界状態の真っ只中に届いたのが、冒頭の義妹からの打診でした。
義妹は遠方に住んでいます。来てもらうとしたら、母は絶対に「水臭いことを言うな! うちに泊めろ」と言い張るのが目にみえていました。認知症になったとはいえ、かつての習慣だけは脳の深いところにこびりついているからです。
しかし、いまのナナミさんに、客人を迎えて布団を干し、食事を準備する余裕など1ミリも残っていません。ナナミさんは意を決して、現在の母の状況、そして自分自身が仕事と介護でクタクタで余裕がないことを丁寧に説明し、断りました。「ごめんなさいね」という言葉を添えて。
義妹の一言に、心が折れた
しばらくして、義妹から返信が届きました。そこに書かれていた文面を目にした瞬間、ナナミさんは自分の心が折れる音が聞こえた気がしました。
「そっか、残念。でも、ナナミさんのお母さんもストレス発散で暴れているんだから、元気な証拠よね! いまの時代、そこまで面倒をみてもらえるなんて、お母さんは本当に幸せ者だよ。ナナミさんも、親孝行できてとても幸せだね」
——幸せ、ね。
スマホの画面を凝視したまま、ナナミさんは呆然としました。なんでそんなことを、なにも知らない義妹に言われなければならないのか。憤りと、言いようのない虚しさが、波のように押し寄せてきました。
デイサービスに送り出すために毎朝頭を下げ、夜中に徘徊する母の足音におびえ、職場で平謝りしながら手に入れている「月収27万円」。母が暴れるのは、元気だからではない。脳の病気が、かつての母の優しい人格を少しずつ壊しているからなのに……。
その夜、母を寝かしつけたあと、ナナミさんは一人で声を殺して泣きました。これまで張り詰めていた心が折れてしまったのです。
介護現場の表と裏
真面目で責任感が強い介護者ほど、周囲からの悪意のない言葉に傷つけられ、追い詰められていきます。
介護は、個人の美徳や根性論で解決できるものではありません。特に「住宅ローンがある」「仕事を辞められない」という経済的な制約があるなかで、身内の無理解や世間の綺麗事は、介護者を社会から孤立させる引き金になります。
今回のケースで、ナナミさんが親戚の訪問を断ったのは、正しい防衛策といえるでしょう。共倒れを防ぐためには、親戚の期待に応えることよりも、自分の睡眠と生活の維持を最優先しなければなりません。
ナナミさんは翌朝、ケアマネジャーに「もう限界です。ショートステイや、将来的な施設入所の手続きを進めてください」と、涙ながらに打ち明けました。それは、親を捨てることではなく、自分自身の人生を取り戻すための、正当な権利なのです。
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