近年、シニア世代が孫のために費やす「孫消費」の金額が増加傾向にあります。イベント時だけでなく、日常的な訪問の際にも手渡されるお小遣いは、祖父母にとって「惜しみたくない支出」になりがちです。しかし、限られた年金や貯蓄の中で無理を重ねる生活は、老後の基盤を静かに揺るがすリスクを孕んでいる点も見逃せません。
「お小遣いがないと来てくれないの…?」年金180万円・貯蓄900万円の74歳祖母、〈孫との距離〉に気づいた瞬間 (※写真はイメージです/PIXTA)

孫が来てくれる日だけが、楽しみだった

チトセさん(仮名/74歳)は6年前に夫を亡くし、一人で暮らしています。遺族年金と自身の国民年金を合わせた180万円が収入のすべてで、貯蓄は900万円。持ち家で暮らしており、生活に困っているわけではありませんが、日々の静かさが身に染みることは増えました。

 

そんなチトセさんにとって唯一の楽しみが、孫の訪問でした。息子夫婦は車で1時間ほどの距離に住んでおり、孫は中学2年生と小学5年生の兄妹です。月に1〜2回、孫たちが遊びに来てくれる日はチトセさんにとって特別な日。前日からご馳走を作り、「またおいで」と見送るその瞬間まで、心が満たされていました。

 

そして、孫が帰るときには必ずお小遣いを手渡すのが、いつからか習慣になっていました。一人につき2,000〜3,000円。お正月には1万円ずつ、誕生日には「好きなものを買ってね」と5,000円。上の孫が中学受験を控えたときには「頑張りなさい」と封筒に3万円を入れました。「愛情を渡しているつもりだった」とチトセさんは言います。

LINEで気がついた孫との本当の距離

ある秋の日のことでした。その週末、チトセさんは少し体調を崩しており、足腰の痛みから外に出るのが億劫になっていました。「今週末は銀行にも買い物にも行けそうにない」と思ったチトセさんは、上の孫に宛ててLINEを送りました。

 

「ちょっと足腰が痛くてね。今週末は買い物や銀行に行けそうにないから、ご飯やお小遣いは用意してあげられないかもしれないの。でもおばあちゃん、あなたに会いたいな。よかったら、ちょっとだけ顔を見せに来てくれる?」

 

チトセさんとしては、「おばあちゃん大丈夫?」という心配の言葉や、「顔を見に行くだけでもいいよ」という優しい返信をどこかで期待していました。しかし、スマートフォンに届いたのは、「じゃあまた今度にするね。お大事に」の二言。

 

その後、孫たちからの連絡はぱたりと途絶えました。1週間、2週間が経っても、遊びに行きたいという連絡はありません。

 

釈然としない寂しさを抱えていた数日後、チトセさんの体調を心配した息子から電話がかかってきました。チトセさんが「実は、お小遣いやご飯が用意できないってLINEしたら、孫たちに来るのを断られちゃってね……」とぽつりと零すと、電話の向こうの息子は、しばらく沈黙したあと、言いにくそうにこう切り出しました。

 

「母さん、ごめん。実はさ……この前、上のやつが友達と『今週末はおばあちゃんちでお小遣いをもらえるから、新しいゲームが買えるんだ』って電話で話しているのを、妻がたまたま聞いていたんだよ。母さんがいつもお小遣いをくれるから、あいつら完全にそれをあてにして実家に行っていたところがあると思う。だから、そんなそっけない態度を取ったんじゃないかな。甘やかせすぎて本当にごめん」

 

「お小遣いがないと、来てくれないの……?」

 

息子は「ただ、子どもは正直だから」となだめましたが、チトセさんの胸の中には別の問いが芽生えていました。「私はいつから、お金で来てもらおうとしていたんだろう」。

 

夫が亡くなってから、孫が来てくれる日だけが張り合いになっていました。その張り合いを保つために、無意識のうちに「お小遣い」という呼び水を使い続けてきたのかもしれません。チトセさん自身も、その構造に薄々気づいていなかったわけではありませんでした。