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退職金は「夫婦の財産」か「個人のご褒美」か
老後資金は夫婦で共有するものなのか。それとも、長年働いた本人が自由に使ってよいものなのか。 定年退職を迎えたあと、この問いが現実の問題として浮上する家庭は少なくありません。
金融経済教育推進機構『家計の金融行動に関する世論調査(2025年)』によると、60代・二人以上世帯の金融資産保有額は平均2,683万円、中央値は1,400万円。退職金が家計資産に占める割合は決して小さくなく、その使い道は老後生活そのものを左右します。
神奈川県在住の会社員だった高橋健一さん(60歳・仮名)と妻の由美さん(58歳・仮名)。
「定年の日は達成感がありました。40年近く働いてきて、ようやく自由になれるんだと感慨深かったです」
高橋さんは大手メーカーで働き、60歳で定年退職。退職金として約2,500万円を受け取りました。一方で、夫婦には共通の課題がありました。住宅ローンは完済していたものの、今後は年金生活が中心になります。由美さんは以前から老後資金を重視していました。
「旅行はしたい。でも医療費も介護もわからない。だから退職金には手を付けないでおこうと話していました」
そう振り返ります。ところが、定年から半年ほど経ったある日、由美さんはネットバンキングを確認して違和感を覚えました。夫婦の共有口座から1,500万円近い資金がなくなっていたのです。さらに、毎月5万円程度の引き落としも続いていました。
「嘘でしょ…」
慌てて通帳や明細を確認しましたが、不正送金の形跡はありません。その日の夜、由美さんは夫に尋ねました。
「このお金、何に使ったの?」
高橋さんは一瞬言葉に詰まりました。
「そのうち話そうと思っていたんだ」
由美さんによると、その返答で何かを隠していると確信したといいます。数日後、夫婦で金融機関を訪れ、資金移動の履歴を確かめました。送金先は中古車販売会社でした。
「車?」
由美さんは意味がわかりませんでした。実は高橋さんは若い頃からクラシックカーが好きでした。しかし結婚後は子育てや住宅購入が優先となり、趣味に大きなお金を使うことはありませんでした。
「いつか乗りたいと思っていた車があったんです」
高橋さんが購入したのは1970年代の輸入クラシックカーでした。車両代がおよそ1,500万円。さらに自宅近くではなく、少し離れた場所に月額約5万円のガレージを借りていました。家族に見つからないようにするためでした。 「反対されると思ったんです」と高橋さん。実際、購入後も妻には一切知らせませんでした。 休日になると「友人と会う」と言って外出し、ガレージで車を眺めたり整備したりしていたといいます。