年金だけで暮らす高齢者が増えるなか、住居費の負担は老後生活を左右する大きな課題となっています。長年、民間賃賃マンションでの暮らしにこだわってきた人でも、収入や家賃の問題から住み替えを迫られるケースは少なくありません住環境への固定観念を抱いていたひとりの女性の選択を通じて、老後の住まいについて考えていきます。
「嫌よ、そんな古臭いところ」団地住まいを冷笑していた、都会生まれ・都会育ちの68歳女性。「年金月15万円」の終着点 (※写真はイメージです/PIXTA)

「団地だけは嫌だった」……68歳女性が直面した家賃負担の現実

「団地なんて絶対に住まないと思っていました」

 

そう話すのは、東京都内で生まれ育った田中由紀子さん(68歳・仮名)。都内の出版社で長く働き、60歳で定年退職。その後も契約社員として働き、65歳で完全退職しました。現在の収入は年金のみで、月額は約15万円です。

 

厚生労働省『令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、厚生年金(第1号)受給者の平均年金月額は、基礎年金を含めて15万1,142円。また、65歳以上・男性の厚生年金受給権者の平均受給額は月17万3,033円。対して、女性は月11万4,797円。由紀子さんは、平均以上の受給額ではありました。

 

現役時代から一人暮らしを続けてきたのは、都心からも近い賃貸マンション。駅から徒歩圏内で、オートロック付き。築年数は古かったものの、何よりも一時もてはやされたデザイナーズマンション風で、利便性も最高でした。しかし、退職後の生活は想像以上に厳しかったといいます。

 

「家賃が月12万5,000円でした。年金が15万円、手取りにすると月12万円ですから、貯金を取り崩していかないと、生活が成り立たない。当然一人で生きていくと決めていたので、蓄えはそれなりにありましたが、先行きは不安でした」

 

食費や光熱費、通信費、医療費……当初は「節約で乗り切れる」と考えていたものの、物価上昇も重なり、家計は徐々に圧迫されていきます。そんなとき、区役所で紹介されたのが都営住宅でした。

 

「最初は断りました。団地という言葉を聞いただけで、『古い』『不便』『お金のない人が住むところ』というイメージがあったんです」

 

由紀子さん自身、都会生まれの都会育ちということもあり、これまで団地に良いイメージを持っていませんでした。それでも担当者から勧められ、見学だけ行ってみることにしました。現地を訪れた由紀子さんは、予想との違いに驚いたといいます。

 

「建物は確かに古かったです。でも共用部はきれいに管理されていましたし、室内もリフォーム済みでした」

 

入居したのは築40年超の団地でしたが、浴室やキッチンは更新され、床や壁紙も張り替えられていました。家賃は4万2,000円。以前の住まいの半額以下です。エレベーターはありませんが、2階や3階であれば、問題ないように思えました。

 

「もっと早く知っていればと思いました。見た目だけで判断していたんです」

 

現在は徒歩圏内にスーパーや病院もあり、生活に不便は感じていないそうです。むしろ管理費込みでも住居費が大幅に下がったことで、生活に余裕が生まれました。

 

「赤字の心配をしなくなりました。貯金を取り崩すことなく、趣味も楽しめるし、友人と食事にも行けます」

 

もちろん、すべての団地が同じ条件ではありません。設備や立地には差がありますし、人気物件は空室待ちになることもあります。それでも由紀子さんは、「老後の住まいは見栄ではなく、収支で考えるべきだった」と振り返ります。

 

「現役時代の感覚を引きずっていました。年金生活になったのに、住まいだけは変えたくなかった。でも実際に住んでみると、不満はほとんどありません」

 

都心で暮らし続けたいという思いよりも、安心して生活費を管理できることのほうが大切だったといいます。