(※写真はイメージです/PIXTA)
「これで全部終わった」
東京都内のマンションで一人暮らしをする山田和子さん(74歳・仮名)は、3年前、自分の終活をほぼ終えたと考えていました。
山田さんは元公務員。65歳で完全に仕事を辞め、年金収入は月16万8,000円。管理費と修繕積立金を含む住居費は月4万5,000円ほどでした。大きな借金はなく、預貯金は約2,000万円。生活は決して派手ではありませんが、老後資金への不安も強くありませんでした。
独身で子どもはいません。両親はすでに他界し、兄弟とも疎遠です。
「迷惑をかける相手がいないからこそ、自分の始末は自分でつけなきゃいけない」
それが山田さんの口癖でした。そこで力を入れたのが、自分の死後の準備。遺言書の作成。 見守り契約。 死後事務委任契約。 そして納骨先の確保――選んだのは都心部にある高級納骨堂です。駅から徒歩5分。館内はホテルのロビーのように整備されていました。永代供養付きで、生前契約費用は約180万円。担当者はこう説明したといいます。
「ご親族がいなくても大丈夫です。最後まで責任を持って供養いたします」
山田さんは安心しました。
「これで無縁仏にはならずにすむ」
契約書に署名した日を、そう振り返ります。そのときの預金残高は約2,200万円でした。高額な支出でしたが、不安を取り除くための費用だと思っていたのです。
一通の通知に戦慄
事件は、突然起こります。ある日、自宅ポストに封書が届きました。差出人は納骨堂の運営法人。最初は管理費の案内だと思いました。しかし封を開いた瞬間、手が止まります。そこには運営継続が困難になったこと、事業譲渡先の選定手続きに入ったことが記されていました。
さらに数ページ後には、利用者向け説明会の案内が添付されていました。山田さんは何度も文面を読み返しました。意味が理解できなかったのです。
「経営継続が困難って何? 私の遺骨はどうなるの?」
数日後に開かれた説明会には、多くの契約者が集まっていました。高齢者が中心です。会場では怒号も飛び交いました。
「永代供養じゃなかったのか」
「金は払ったぞ」
「契約はどうなる」
運営側は資金繰り悪化や利用者減少などを説明しました。しかし参加者が求めていたのは経営事情ではありません。自分の死後の居場所が保証されるのかどうかでした。山田さんは帰宅後、初めて強い恐怖を感じたといいます。 「お金を失う話じゃないんです。死んだあとに行く場所がなくなるかもしれない話なんです」 その夜はほとんど眠れませんでした。