(※写真はイメージです/PIXTA)
耳を疑う「冷酷な一言」
決定的な出来事は翌年に起きます。和子さんが転倒して大腿骨を骨折し、入院とリハビリが必要になりました。信夫さんも高齢なため、毎日の見舞いや各種手続きが負担になりました。
そこで夫婦は改めて健太さんへ連絡します。
病院への付き添いや退院後の見守り、将来的な介護の相談など、そんな話をしたかったのです。ところが、健太さんの返答は予想外のものでした。電話口でしばらく沈黙したあと、低い声で言いました。
「正直に言います、僕には無理です」
信夫さんは耳を疑いました。
「何を言ってるんだ。お前に財産を残すつもりなんだぞ」
すると健太さんはさらに続けました。
「その話なんですけど、財産をもらうことと、介護を引き受けることは別です」
空気が凍りました。信夫さんは言葉を失います。健太さんは止まりませんでした。
「僕にも家庭があります」
「仕事もあります」
「叔父さんたちの面倒を見る義務なんてありません」
その一言が突き刺さりました。そして佐伯さん夫婦は初めて気づいたのです。自分たちが考えていた“家族”と、健太さんが考える「家族」とはまったく違っていたことに。
民法第877条では扶養義務の範囲を定めていますが、甥や姪は範囲外となります。親子や配偶者とは立場が異なりますが、夫婦は法律ではなく情でつながっていると思っていました。だからこそ衝撃は大きかったのです。
その後、関係はぎくしゃくして連絡は減り、相続の話も自然と消えました。最近、信夫さんは任意後見契約や見守りサービスについて調べ始めています。月額1万円前後のサービスや、死後事務委任契約なども検討中です。
「お金があれば何とかなると思っていました」