子どものいない高齢夫婦が増えるなか、「老後は甥や姪といった親戚が支えてくれるだろう」と考える人もいるでしょう。しかし、家族の形や価値観が大きく変わったいま、その期待が思わぬ悲劇を招くケースもあります。今回は、資産8,000万円を保有しながら、頼りにしていた甥との関係が一変した70代夫婦の事例を通して、子のいない夫婦が直面する相続と老後の現実をみていきます。
「私が面倒を見る義務はありません」〈資産8,000万円〉子のいない70代夫婦。あてにしていた甥から放たれた「冷酷な一言」 (※写真はイメージです/PIXTA)

耳を疑う「冷酷な一言」

決定的な出来事は翌年に起きます。和子さんが転倒して大腿骨を骨折し、入院とリハビリが必要になりました。信夫さんも高齢なため、毎日の見舞いや各種手続きが負担になりました。

 

そこで夫婦は改めて健太さんへ連絡します。

 

病院への付き添いや退院後の見守り、将来的な介護の相談など、そんな話をしたかったのです。ところが、健太さんの返答は予想外のものでした。電話口でしばらく沈黙したあと、低い声で言いました。

 

「正直に言います、僕には無理です」

 

信夫さんは耳を疑いました。

 

「何を言ってるんだ。お前に財産を残すつもりなんだぞ」

 

すると健太さんはさらに続けました。

 

「その話なんですけど、財産をもらうことと、介護を引き受けることは別です」

 

空気が凍りました。信夫さんは言葉を失います。健太さんは止まりませんでした。

 

「僕にも家庭があります」

「仕事もあります」

「叔父さんたちの面倒を見る義務なんてありません」

 

その一言が突き刺さりました。そして佐伯さん夫婦は初めて気づいたのです。自分たちが考えていた“家族”と、健太さんが考える「家族」とはまったく違っていたことに。

 

民法第877条では扶養義務の範囲を定めていますが、甥や姪は範囲外となります。親子や配偶者とは立場が異なりますが、夫婦は法律ではなく情でつながっていると思っていました。だからこそ衝撃は大きかったのです。

 

その後、関係はぎくしゃくして連絡は減り、相続の話も自然と消えました。最近、信夫さんは任意後見契約や見守りサービスについて調べ始めています。月額1万円前後のサービスや、死後事務委任契約なども検討中です。

 

「お金があれば何とかなると思っていました」