(※写真はイメージです/PIXTA)
「私、課長になるの」キャリアの勝負どきを迎えた妻と、取り返しのつかない溝
あれから6年が経ち、「全然覚えてない……」と青ざめるスグルさんを前に、サヤカさんの怒りが爆発します。
「自分の都合がいいときだけ子ども作ろうなんてふざけないでよ。6年前とは出産のリスクだって全然違うんだよ。それに私、課長になるのよ? いまが頑張りどきなのにあなたの気まぐれに付き合って、いまさらキャリアを棒に振れるわけないでしょ」
スグルさんの会社は最近ようやく軌道に乗り、自身の年収も1,100万円を超え心にゆとりが持てるようになったところです。だからこそ「いまなら父親になれる」と提案したのですが、サヤカさんにとっての“タイムリミット”と“キャリアの大事な時期”を完全に見落としていたようです。
「あのとき、妻は焦りや不安を抱えながら俺に相談していたのに、自分のことしか見えていなかった。妻の人生をなんだと思っていたのか……」
完全に心を閉ざしてしまったサヤカさんを前に、スグルさんは自らの身勝手さを悔やんでいます。しかし、失われた時間とサヤカさんからの信頼を取り戻す術は、いまのところ見つかっていません。
日本の夫婦間に根強く残る「ジェンダーの壁」と「キャリア格差」
女性にとっての「妊娠・出産・育児」は、男性が思っている以上に、自身のキャリアを分断しかねないシビアな問題です。
内閣府の「男女共同参画社会に関する世論調査(令和6年)」によると、「育児や介護、家事などに女性の方がより多くの時間を費やしていることが、職業生活における女性の活躍が進まない要因の一つだ」という意見に対し、実に84.3%の人が「そう思う」と回答しています。
さらに、内閣府の「結婚行動の経済分析(2025)」においても、現代の共働き家族における子育ての最大の費用(コスト)は、教育費などの金銭面以上に、「母親がフルタイムで就業できなくなる(キャリアが停滞する)こと」であると指摘されており、女性が常に「仕事か子育てか」の選択を迫られている現状が推測できます。
6年前、スグルさんは「自分の仕事(ベンチャー企業への転職)」を理由にサヤカさんの希望を却下しましたが、出産に伴う身体的リスクに加え、その後の育児負担やキャリア停滞のリスクを背負うのはサヤカさんです。
「生めるものなら生みたい」という35歳当時の切実なタイムリミットを無視し、今度は「課長」というキャリアの勝負どきを迎えたタイミングで、自分の年収や仕事が落ち着いたからと都合よく切り出したスグルさん。サヤカさんの人生やキャリア設計に対する決定的な想像力の欠如が、夫婦のあいだに決して埋まらない溝を生んでしまったといえるでしょう。
スグルさんが6年前、一方的にサヤカさんの希望を否定するのではなく、互いのキャリアとタイムリミットについて真剣に話し合い、歩み寄る努力をしていれば、このような取り返しのつかない事態は防げたのかもしれません。
[参考資料]
内閣府「男女共同参画社会に関する世論調査(令和6年)」
内閣府「結婚行動の経済分析(2025)」
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