長年勤めた会社を離れ、自身のスキルや人脈を武器に「独立起業」の道を歩む。しかし組織の看板があるのと、ないのとでは大違い。想定外の事態に直面するケースは少なくありません。年収1,200万円の安定した地位を捨てて理想のスタートを切った男性のケースから、ベテラン会社員の独立開業のシビアな現実をみていきます。
「こんなはずじゃなかった…」55歳・年収1,400万円を捨てて独立した元会社員、わずか8ヵ月で廃業に追い込まれた「まさかの誤算」 (※写真はイメージです/PIXTA)

「会社の看板」を失った個人事業主の冷酷な現実

日本政策金融公庫総合研究所『2025年度起業と起業意識に関する調査』によると、起業家が事業を行ううえで問題だと感じていることのトップは「売り上げを安定的に確保しづらい」(42.5%)。特定の知人からの大口案件のみに依存し、契約書を交わさずに見切り発車で実務を始めたことは、起業における最大のリスクを無防備に引き受ける行為でした。また同調査において、起業に関心がありつつも踏み切れない人が懸念する「失敗したときのリスク」の上位には、「事業に投下した資金を失うこと」(74.8%)と「安定した収入を失うこと」(66.0%)が挙げられています。

 

木村さんは、年収1,200万円という安定収入を自ら手放したうえ、退職金などの自己資金も先行投資で失い、まさに多くの人が恐れる「起業の二大リスク」を最悪の形で現実のものとしてしまいました。なお、同調査では起業時にあったらよい支援策として、最も多い53.6%の人が「税務・法律関連の相談制度の充実」を求めています。

 

もし木村さんが事前に法律の専門家へ相談し、契約書のない口約束による先行着手の危うさを客観的に指摘されていれば、独立への判断やその後の結果は大きく違っていたかもしれません。

 

木村さんはその後、新規開拓に奔走しました。しかし、前職の肩書を失った個人事業主に対する現実は厳しいものでした。知名度のない個人事務所に、高額なコンサルティング案件を依頼する企業は簡単には見つかりません。

 

クラウドソーシングサイトで見つけた低単価の案件をこなす日々が続きましたが、月収は10万円に満たず、赤字が続きます。

 

「前職時代の『人脈』は、会社の看板があったからこそ成り立っていた。個人としての営業力を甘く見積もりすぎていたのです」

 

好転の兆しがみえないなか、このまま地道に続けていくか、それとも廃業して、再就職を目指すか……木村さんは後者を選択。独立から、わずか10ヵ月でした。

 

また、再就職を目指すものの、一度組織を離れて独立に失敗したシニア層に対しては、組織適応力に懸念があるとみなされるからか、そのハードルは高くなるのが現実です。

 

「現役時代の月収の半分でもいいし、契約社員からでもいい。今からでもやり直す覚悟です」