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順風満帆だった会社員生活と、独立への誘い
「まさか、あの言葉をそのまま信じてしまうなんて。自分の甘さを呪うしかありません」
都内の喫茶店で木村和也さん(56歳・仮名)は、自身の選択を後悔していました。1年前までは上場企業の管理職で、年収は1,400万円ほど。現在は10ヵ月で個人事業の廃業を余儀なくされ、求職中の身です。
木村さんが独立を意識し始めたのは、50代に入ってからのことでした。組織のなかでの天井がみえ、どこか閉塞感を覚えていたころ、自身の力で事業を行いたいという思いが強くなっていきました。そんな木村さんの背中を押したのが、取引先の前担当者であり、数年前に独立してITベンチャーを経営していたA氏からの言葉でした。
「木村さんが独立するなら、うちの年間プロジェクトを丸ごと業務委託で発注しますよ。『一緒にやろうよ』と何度も声をかけてもらい、具体的な金額まで提示されていました」
そこで55歳になった木村さんは退職届を提出。退職金1,800万円と自己資金を合わせ、ITコンサルティング事務所を開業しました。気心の知れたA氏の会社から大口案件があるという確信が、木村さんの判断を鈍らせていました。
狂い始めた歯車と、突然の経営環境の変化
しかし、開業直後から予定が狂い始めます。正式な契約を結ぶ段階になって、A氏から「発注元の親会社との調整に少し時間がかかっている。来月には締結できるから、先に準備を進めてほしい」と連絡が入ったのです。
木村さんはA氏との長年の信頼関係を重視し、契約書を交わさないまま先行して実務を開始しました。
異変が起きたのは開業から4ヵ月が経過した頃でした。A氏との連絡が滞るようになり、ようやく繋がった電話で予想外の事実を告げられます。
「A氏の会社が主要クライアントから急な契約打ち切りに遭い、経営危機に陥っていました。私の案件どころではなくなり、発注自体が白紙になったのです」
木村さんの手元に残されたのは、契約書のない口約束の案件と、先行投資で減少した手元資金だけでした。