定年後も働き続けることが一般的となった現代。しかし、現役時代に築いた実績や地位が、再雇用を機に一瞬で崩れ去る厳しい現実があります。かつて高年収を誇った男性の事例を通し、シニア社員を取り巻く職場のリアルと見落とされがちな課題に迫ります。
惨めすぎる…〈年収1,200万円〉の大手企業部長、再雇用で〈年収400万円〉に。若手社員から「お荷物社員」の烙印、プライドがズタズタに引き裂かれる日々 (※写真はイメージです/PIXTA)

定年と「契約社員」への切替

「定年を迎えるまでは、自分が会社に必要な存在だと信じていました。しかし立場が変われば、これほど手のひらを返されるものなのかと愕然としています」

 

都内・インフラ関連企業で長年、営業部門の部長を務めていた松本達也さん(60歳・仮名)。現職時代は15人以上の部下を抱え、組織の中心で予算や人事の決定権を握っていました。当時の年収は約1,200万円であり、社内でも一目置かれる存在として、部下たちからも慕われている自負がありました。

 

しかし、60歳の定年を迎えたことを機に状況は一変しました。会社に残る道を選んだ松本さんに提示されたのは、1年更新、最長70歳まで働くことのできる「再雇用契約社員」という立場でした。給料が現役時代の3分の1である年収400万円まで激減しただけでなく、役職のない一歩引き下がった立場として、新たなスタートを切ることになったのです。

 

シニア契約社員としての実務が始まって間もなく、松本さんは強い違和感を抱くようになります。役職がなくなり、権限も責任も縮小されたはずであるにもかかわらず、周囲の元部下たちの態度は定年前と大きく変わりませんでした。

 

「かつての部下たちが、現役時代と同じように仕事の相談やトラブルの解決策を求めて私の席にやってくるのです。最初は頼りにされていると考えて応じていましたが……私を敬っているというよりも、単に面倒な実務や判断を押し付ける都合のいい相談役と考えているのではないかと疑ってしまいました」

 

厚生労働省『令和7年賃金構造基本統計調査』によると、50代後半部長職(男性)の平均給与は年収1,087万円、月収66.6万円です。また60代前半の非正規社員(男性)の平均給与は年収479万円、月収33.3万円。60歳定年で役職がなくなり、雇用形態も正社員から非正規社員になることで、統計上、給与は半分以下になります。現役時代の給与がさらに高ければ、松本さんのように定年を境に7割減ということも珍しくありません。また「賃金だけが大幅に下がったのに、業務内容は変わらない」というケースも多く、シニア社員のモチベーション低下の原因になっています。

 

さらに松本さんを追い詰めたのは、現場の指揮命令系統が変わったことによる決定権の喪失でした。現役時代であれば、部下からの相談に対してストレートに指示を出せました。しかし現在の松本さんには、組織上の権限が一切ありません。

 

「元部下から持ち込まれた案件についてアドバイスをしても、それを最終的に承認するのは私よりも10歳以上若い新しい部長です」

 

ある日、いつものように相談に来た元部主に「その話は、今の部長に通したのか?」と尋ねました。すると、その元部下は面倒くそうな顔をしました。

 

「『松本さんから新しい部長に話を通しておいてくれませんか』と言われました。私を新しい上司への根回し役として扱っているのです」

 

自分がかつて座っていた椅子に座る若い上司と、自分を便利屋として扱う元部下。その板挟みのなかで、松本さんは疲弊していったといいます。