(※写真はイメージです/PIXTA)
IT系企業に入社後、気がついた現実とのギャップ
就職活動では、「ITは将来性がある」「稼げそう」というイメージから、AさんはIT系企業に絞って活動し、都内のITベンチャー企業に就職した。しかし入社後に実感したのは、「IT=高給」というイメージとのギャップだった。
新卒時の手取りは月18万円ほど。社会人7年目となった現在でも、手取りは月22万円前後に留まる。生活費、家賃、食費、通信費……物価高が進む東京での一人暮らしの出費はかさむ。そこに毎月約1万2,000円の返済が加わる。
「スマホ代より少し高いくらいですよ。ジムの月会費と同じくらい。だから金額としては大きいとは思っていないんですけど……実際には全然見直せていなくて」
スキルアップのための「月3万円のスクール」に通わない理由
現在のAさんの仕事において、スキルアップへの投資は収入に直結する。資格取得や新しい技術の習得、オンラインスクールへの参加それらが転職市場での評価を高め、年収の上昇につながるのだ。
「本当はスキルアップのためにお金を使いたいんです。オンライン講座とか、気になるものはいくつもあって。でも、毎月の支出が積み重なるなかで、なかなか踏み切れないんです。月3万円のスクールも、普通に考えたらそこまで高くないと思うんですけど、固定費がある状態でさらに支出を増やすのが怖くて」
転職も視野には入れている。しかし、実際には動けずにいる。
「転職すればもっと伸びると思うんですが、収入が一時的に下がるのが怖くて動けません。いまの会社なら返済ペースが崩れない。それだけで、ここに留まる理由になってしまっている気がします。副業も考えましたが、リスクを取ってまで動く余裕が、気持ちの上でないんです」
こうした判断の積み重ねが、結果として現状維持を選び続けている。ボーナスが出るたびに、繰上げ返済も頭をよぎるが、「なにかあったときのために」という不安がそれを上回り、毎回見送ってしまうという。
友人にも、恋人にもいえない理由
返済の悩みを誰かに打ち明けることは難しい。
「200万円くらいでしょ、って軽くいわれそうで、あまり話していません。金額が少ないから、逆に大げさにみられそうで」
現在、交際している男性がいる。彼は奨学金を借りていない。結婚を意識しはじめたことで、奨学金のことをいつ伝えるか、ずっと気になっている。
「結婚の話が出る前にいわなきゃとは思っているんですが、タイミングがわからなくて……。お互いの収支の話をするような関係になれば自然といえるのかもしれませんが、自分だけなにかを背負っているような感じがして、言い出しにくいんです」
SNSを開くと、同世代の友人が転職や副業、起業の投稿をしている。その画面をスクロールしながら、Aさんは、自分だけが前に進めていないような感覚にとらわれることがあるという。蓄積された鬱屈は、ある日、思わぬ形で噴出した。
実家の母親から電話があったときのことだ。何気ない「最近どう? 結婚の話は出ているの?」という問いかけに対し、Aさんは唐突に感情を爆発させた。
「私が一番焦っているの! 毎月、お金が引かれるたびに惨めな思いをしてるの、お母さんにわかるわけないじゃない!」
受話器の向こうで沈黙する母に構わず、彼女は泣きだした。電話を切ったあと、激しい自己嫌悪が襲った。進学を決めたのは自分であり、両親もまた決して裕福ではなかったことは理解している。しかし、SNSで転職や起業、海外旅行を楽しむ同世代を眺めるたび、自分だけが「過去の清算」のために足踏みしている感覚を、誰かにぶつけずにはいられなかったのだ。