地方出身の多くの若者にとって、上京は単なる移動ではなく「人生のアップグレード」を懸けた挑戦である。しかし、その通行手形として手にした奨学金が、皮肉にも東京での自由を奪う足かせとなる現実がある。「東京へ行けばなんとかなる」という18歳の無邪気な憧れが、10年後の人生の選択肢にどのように影響するのか。29歳女性の事例を通して、奨学金利用者の実態を紐解く。
東京に行きたかったんです…地方生まれ・18歳の女子高生が軽い気持ちで頼った「奨学金240万円」。上京7年、母親に電話して大声で泣いた日 (※写真はイメージです/PIXTA)

「少額」が生む、みえにくいキャリアの停滞

Aさんの返済額は生活を破綻させる金額ではない。しかしその「少額」であることが、逆に問題をみえにくくしている。

 

20代~40代の貸与型奨学金を利用していた会社員100名を対象としたアンケート調査では、返済により日常的にストレスを感じると答えた人は67%。「転職・挑戦を控えた」が21%、「自己投資を控えた」が25%に上り、7割強が返済の悩みを相談することにためらいを感じているという。

 

月々1万2,000円という金額は、家計簿の上では些細に見えるかもしれない。しかし、若年層のキャリア形成において最も重要な「リスクテイク」を阻害している事実は深刻だ。自己投資を控えることでスキルアップが遅れ、結果として生涯賃金が上がりにくくなる。この「機会損失の連鎖」こそが、奨学金問題の真の実態といえる。

「なんとなく進学」のツケと、社会が用意すべき「出口」

Aさんの事例は、単なる個人の金銭トラブルではない。複数の要因が絡み合ったことで「停滞」の現状がある。

 

まず、Aさん自身の選択に「主体的な覚悟」が欠けていた点は、厳しく指摘されなければならない。18歳という若さゆえとはいえ、目的意識の低い進学のために負債を負うリスクを軽く見積もりすぎた。そのツケが、いま、人生の選択肢を狭める足かせとなっているのは事実だ。

 

しかし、一方で彼女を責めるだけでは解決しない構造的な問題もある。日本の労働市場において、いまだに「大卒」が事実上の採用条件(フィルター)として機能している以上、学生は「進学しないことによる不利益」を避けるために、借金をしてでも大学へ行かざるを得ない。企業は大卒人材というリソースを安価に活用しながら、その獲得コスト(奨学金)には無関心を貫いてきた。

 

この「個人の覚悟の甘さ」と「社会の採用構造」の歪みが、いまのAさんのような停滞を生んでいるのだ。現在、注目を集めている「奨学金代理返還制度」は、この歪みを解消する一つの手段だ。企業が返済を肩代わりすることで、個人は挑戦への余力を取り戻し、企業は優秀な人材を確保できる。

 

奨学金が進学の助けになったという「感謝」を、その後の人生で「返済の恐怖」に変えてはならない。それを個人の失敗と切り捨てるのではなく、奨学金利用者のリテラシーを上げること、雇用と教育をリンクさせた「社会全体の出口戦略」として再構築すること。社会として向き合う視点が、停滞を打破する道ではないだろうか。

 

 

大野 順也

アクティブアンドカンパニー 代表取締役社長

奨学金バンク創設者

 

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