現役時代に高年収を誇ったエリート層が、退職後に巧妙な投資詐欺の標的となるケースが増えています。長年のキャリアで培った「自分は正しい判断ができる」という自信が、皮肉にも客観的なリスク管理を妨げる要因となっています。ある男性の転落劇から、高額資産保有者が陥る落とし穴についてみていきます。
〈退職金4,400万円〉〈年金月20万円〉定年部長、高級ラウンジで出会ったセレブにメロメロ…「老後資産5,000万円」消失も、最後まで「私は騙されていません」 (※写真はイメージです/PIXTA)

エリート部長を突き動かした、実体のない優越感

都内・大手IT企業で部長職を歴任し、60歳で定年を迎えた高橋浩二さん(64歳・仮名)。退職金は4,400万円で、現役時代の貯蓄と合わせると老後資金は7,000万円を超えていました。公的年金も夫婦合わせて月額20万円以上。傍目には、盤石な老後生活が約束されているように見えました。

 

「現役時代は1,000人規模の組織を動かしていました。人を見る目には自信がありましたし、経済の動向も常にチェックしていましたから、自分が騙されるなんて微塵も思っていませんでした」

 

高橋さんは落ち着いた口調で当時を振り返ります。転機は、定年退職から1年が過ぎたころでした。かつての部下に誘われて顔を出した、港区にある会員制の高級ラウンジ。そこで紹介されたのが、自称・実業家を名乗る40代の女性でした。

 

「彼女は品があり、政財界の重準とも繋がりがあると言っていました。話す内容も非常に理知的で、私が現役時代に手掛けていた事業の難しさも理解してくれた。久しぶりに、自分と同等、あるいはそれ以上のレベルで会話ができる人間に出会えたと感じたんです」

 

彼女から聞かされたのは、東南アジアの不動産開発を軸にした「プライベート・ファンド」でした。一般には出回らない特別な案件であり、一口1,000万円から。年利は12%を保証するという内容です。

 

「銀行の金利がゼロに近いなか、12%というのは魅力でした。しかし、それ以上に『選ばれた人間しか参加できない』という言葉に強く惹かれた。彼女は、私がキャリアを通して培ってきた功績を讃え、『その資産をもっと社会に役立てるべきだ』と説きました」

 

高橋さんはまず1,000万円を振り込みました。数カ月後、スマートフォンの画面上で確認できる「運用サイト」には、確かに配当金が加算されていました。その数字を見た高橋さんは、さらに1,000万円を増資。彼女との食事の回数も増え、彼女への「個人的な支援」も含め、投資額は雪だるま式に増えていきました。

 

異変に気づいたのは、投資開始から2年後のことです。サイトへのログインができなくなり、彼女とも連絡が途絶えました。

 

「家族には内緒にしていました。妻から『老後のための通帳を見せてほしい』と言われたとき、初めて老後資金が5,000万円ほど消え、残金が3分の1程度になっていることに気が付きました。それでも、彼女が嘘をついていたとは信じたくなかった」

 

高橋さんの勝手な行動により、現在、妻とは冷戦状態にあります。それでも高橋さんは、「あれは投資の失敗であって、詐欺ではない。彼女は私を認めてくれた数少ない一人だったと信じています」と言い続けています。