(※写真はイメージです/PIXTA)
「教育費優先」が招く、老後計画の欠陥と今後へのマインドチェンジ
2019年(令和元年)6月に公表された、金融庁 金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書『高齢社会における資産形成・管理』では、長寿化に伴い「公的年金以外に約2,000万円の蓄えが必要」という試算が注目されました。同報告書では、子育て世代が教育費に過剰な比重を置くあまり、定年前後の資産形成が後手に回るリスクについても警鐘を鳴らしています。
サカイさんのように「3人の娘に私立教育を」という選択は、親としての尊い愛情ですが、「定年後も稼げる」という予測は、本人の健康や会社の状況、あるいは今回のようなキャリアの暗転によって、容易に崩れてしまいます。「定年後も高い役職で稼ぎ続けること」を前提とした、非常にスリリングな資金計画でもあったのです。
内閣府『令和7年版 高齢社会白書』の調査によると、高齢者男性が働く理由として「収入を得たいから」が57.1%で最多となっています。しかし、注目すべきは次いで多い「働くのは体によいから、老化を防ぐから(18.8%)」という回答です。
サカイさんにとって、現在の仕事は、単なる生活費稼ぎの場ではありません。同白書が示すとおり、社会との接点を維持することが、精神的な健康を守ることに繋がっているのでしょう。たとえ若者に吐き捨てられても、現場で汗を流すことは、彼にとって「稼ぎ手」としての自尊心を繋ぎ止めています。
いまのまま「かつての部長」としていまの現場に居続けることは、精神的な磨耗を招くだけです。サカイさんがこの「残酷な居場所」を「再生の地」に変えるには、新しい視点が必要です。
サカイさんは3人の娘たちに最高の教育を与え、社会に送り出しました。これは年収1,200万円時代の彼が成し遂げた「成功」にほかなりません。若者に吐き捨てられたとしても、それはあくまで「荷運びのスキル」への評価であり、サカイさんの「人生の価値」への評価ではないと、明確に切り離す必要があります。
また、「かつてはあんなにできたのに」という過去との比較が、いまのサカイさんを最も苦しめています。しかし、66歳の身体が20代のスピードに敵わないのは当然の事実です。「使えねーな」といわれたとき、心の中で「そのとおりだ、自分はここでは新米なんだ」と認めてしまうことで、かえってプライドによる摩擦を減らし、長く働き続けることに繋がるでしょう。
1,200万円稼いでいたころのサカイさんにとって、1,000円は端数に過ぎなかったかもしれません。しかし、いまの彼が手にする1,023円は、「自分の意志で、家族の生活を1時間守った」という重い結果です。かつての年収と比較するのではなく、そのお金で買うパン一つ、本一冊に、どれほどの自分の忍耐と家族への想いが詰まっているか。その「一円の価値」を噛み締めることこそが、いまのサカイさんを支える本当の誇りになるはずです。
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