(※写真はイメージです/PIXTA)
ライフステージに合わない家という重荷
都心から電車で1時間ほど。そこからバスで15分ほど揺られた先にある、とある閑静な住宅街。かつては人気分譲地として注目を集めたこの場所で、佐々木浩一さん(68歳・仮名)と妻の恵美子さん(66歳・仮名)は、築45年の一戸建てに暮らしています。
貯金は3,500万円、年金受給額は月30万円と、周囲から見れば理想的な老後を送れているかのように見えるでしょう。しかし、浩一さんは自身の住まいを見渡し、ため息まじりに話します。
「我ながら、しっかりとした良い家だと思います。10年前にはフルリフォームもして、段差もない、年をとっても住みやすい家にした。でも、もう、潮時だと思っています」
佐々木さん夫婦がここに引っ越してきたのは1970年代。都心では慢性的な住宅不足が発生し、郊外へと住宅地が外延的に拡大した時代です。マイホームを買うのに“抽選”も当たり前だったといいます。駅からバスを利用し、さらに坂道も多い――当時は「健康のためにちょうどいい」と考えていましたが、今や高齢の二人にとっては大きな障壁となっています。
「都心では叶えることのできない広い庭が憧れでした。子どもたちのために、小さなブランコを置いたりして。でも、そんな生活も子どもが低学年の頃まででしたね」と恵美子さんは振り返ります。子どもたちが独立して20年以上が経過し、かつての子ども部屋も今は物置と化しています。
「今は庭に出ることもほとんどありません。ただ、放置するのは近所迷惑ですから、年に数回、業者にお願いしているんです。眺めるだけのために維持しているようなものですね」
佐々木さん夫婦はここでの生活に区切りをつけ、交通・生活利便性の高い場所への住み替えを検討しています。
「最近の若い人は、仕事の都合や家族構成に合わせて、身軽に引越したりしているじゃないですか。当時は『家は一生もの』が当たり前だったし、会社に通うのが絶対でした。リモートワークなんて言葉も、仕組みもなかった。柔軟に住まいを変えられる今の現役世代は、正直言って羨ましいですね」
45年住んできたこの家にも、この街にも愛着はある。一方で、ここに縛られてきたという思いもゼロではないといいます。
「今は価格も上がって、家を買うのも大変だといいます。でも無理して買う必要はない。子どもたちにも、自身の経験からそう伝えているんです」
