(※写真はイメージです/PIXTA)
「パパ、行きたくない」あの日選んだ家族の形
55歳で役職定年を迎え、現在は出向先で働くタカノリさん(仮名)。給与はそれまでの年収から大幅に減少しました。彼はかつて、全国の支店を転々としながら、現場の最前線で成果を上げてきました。
娘のモエさん(仮名)が幼いころは転勤続きの生活。ところが、モエさんが小学校5年生に上がったころ、大きな転機が訪れます。「また転勤があるかも」と夕食の席で話すと、モエさんは泣きながら訴えました。
「パパ、転勤もうイヤだ。何度もお友達と離れるの、寂しい」
妻も言葉には出さずとも、知り合いが一人もいない土地で、社宅の人間関係に疲弊させていることをタカノリさんは知っていました。「このままある程度に地位に着くまで、全国を転々として追うべきキャリアなのか……」。タカノリさんは妻と相談します。「単身赴任」という選択肢もあったものの悩んだ末に選んだのは、「夫婦で一緒に暮らさずに、結婚している意味があるのか?」「家族はやっぱり一緒にいるべき」「娘の成長を見逃したくない」という思いから、東京本社に留まることでした。
それからは、何度転勤の話が持ち上がっても断り、本社での勤務に全力を尽くします。東京で戸建てを購入し、家族で腰を据えて暮らせる生活を守り続けました。モエさんにも親友ができ、「友達と離れることなく過ごせてうれしい」と笑顔をみせることが増え、ひと安心。タカノリさんは自身の選択に、確かな手応えを感じていたはずでした。
退職金格差
しかし、退職を迎えたとき、悔しい思いは拭えなかったといいます。年の近い親しくしていた先輩から退職金額を聞いたとき、「俺? 2,900万円くらいだったかな」と聞いたからです。タカノリさんの退職金額は2,000万円。1,000万円近くもの差がありました。
「わかってはいたものの、俺の退職金、これだけか……。がむしゃらに働いてきたのに、こんなに差が出るなんて」
「本社で結果を出せば昇給できるだろう」と思っていたタカノリさんでしたが、昇進に必要な地方支店長の経験が積めず、しだいに「地域限定職」のような扱いとなり、気づけば昇進レースから緩やかに外れていたのです。転勤を断った当時は「家族のため」と納得していたタカノリさんでしたが、いざ老後を目の前にすると、老後資金の心許なさに不安が押し寄せます。
妻は「家族仲がよくて幸せなことが一番だと私は思ってる」といいます。しかし、タカノリさんの胸中には複雑な思いが渦巻いています。
「後悔はしていない。でもやっぱり悔しい。サラリーマンを頑張ってきたことには変わりないから」
