「FIRE(早期リタイアと経済的自立)をして、生活費の安い田舎暮らしをすれば余裕ある人生が送れる」。そう考える人は意外と多いようです。50代までに一定の資産を作り、運用をしながら生活費を抑えつつ生活すれば、労働せず生きていくことができる――そんなFIREの夢とセットで捉えることが多い「地方への移住」。たしかに、海や山が近い場所に居を構え、SUVに乗り、サーフィンや釣り、スキーや温泉巡りなど楽しそうな生活が簡単にイメージできます。東京都心でビジネスと投資を必死に頑張ってきたのだから、第二の人生は田舎暮らしでストレスフリーを極めたい……そんな夢もいいもの。しかし実態はそう簡単ではないかもしれません。東京から東北地方へ移住した夫婦の事例から、地方の実態に迫ります。※個人の特定を防ぐため、事例は一部脚色しています。
「ご近所は“家と車だけ”が立派な方ばかりでした」地方移住10年、資産1.6億円の60歳FIRE夫が漏らした本音…温泉・スキーで遊ぶだけ遊び、見切りをつけて東京へ戻った夫婦が〈山手線の内側〉で得た安息 (※画像はイメージです/PIXTA)

隣家の高級ミニバンと「残価設定ローン」

趣味に仕事にと、充実した生活を送っていた夫婦ですが、移住から数年たったころからちょっとした違和感を覚えるようになります。

 

それは、若い家族が、東京の同世代の家族と比べて明らかに「貧しく」見えたこと。言葉はきついですが、「所得が低い」のではなく「貧しい」と感じてしまうのです。もちろん東京と世帯所得は100万円単位で違うでしょうが、東京は家賃が高いので、実質的な生活費にそう大きい違いはないはず。それなのに、仕事で接する若い夫婦はそろって「貯金はゼロに近い」といいます。最初は浪費のせいなのかと思いましたが、みな真面目そうにみえて決してそうではないようです。

 

その答えがみえたのは、隣の敷地に新築の家が建ったときのこと。地元の工務店が30坪くらいの二階建ての家を建て、30歳くらいの夫婦と子供2人が引っ越してきました。駐車場には黒塗りの高級ミニバンと、白い大きなSUVが停められています。

 

「お金のある夫婦なんだな、この田舎でどんな仕事をしているのだろう」と夫Kさんは不思議に思っていました。しかし、偏見かもしれませんが、外見だけをとると高所得の職業に就いているようにはみえません。こちらから挨拶をしても、目も合わせず、首をちょっと動かすだけ。正直なところ、印象がよくありません。

 

お隣さんのように見た目はお金を持っているように見えないけれど、所有物が高額な人たちを多く見かけます。その疑問について、付き合いのあるFPに質問してみました。するとその答えは明快なものでした。

 

「いわゆる、残価設定クレジットで車を買うのが流行っているのです。リースのような仕組みで、ローンの一部だけを支払って、数年後には車を返却する契約です」

 

残価設定クレジットによって、フルローンで購入するよりも相対的に毎月の支払いが安くなります。そのため高級車でも手に入りやすくなりますが、満期が来ると車の乗り換えで再び新しいローンが始まる仕組みです。つまりどこかで新車の購入をやめない限り、永遠に自動車ローンを返済することになります。

 

自動車ディーラーは常に見込み客の数と時期を予測でき、中古車部門も定期的に仕入れが確保されているという売り手には最高のマーケティングでしょう。年収に対して、自動車ローンと維持費の割合が20%~30%におよぶ家庭もめずらしくないとのこと。

 

「東京でいうと、世帯年収600万円の家庭が、家賃15万円の賃貸マンションに住むのと同じ感覚ですね」と夫Kさん。

 

「自動車だけを抜き取るとそうですね」とFPがいいます。「しかし問題は、そのうえに住宅ローンまで抱えていることが多いのです」。

 

土地込みの新築住宅の住宅ローンに、自動車関連費用と合わせると世帯年収に占める割合が50%を超えることもあります。東京都の世帯年収600万円の世帯が、家賃25万円のマンションに住むのと同じでしょう。手取り38万円のうち、生活費で使えるのは13万円だということ。かなり無理があるということは、誰からみても理解できるでしょう。

 

公的なセーフティネットが必要な生活保護水準の生活費は、東京都では月26万円とされています。青森県でも月18万円です。生活費が13万円しか残らないというのは、公的なセーフティネットの基準に近い「貧困レベル」の生活です。

 

「でも、そのレベルの家計がめずらしくないのが、現代の地方の会社員世帯なんです」