「FIRE(早期リタイアと経済的自立)をして、生活費の安い田舎暮らしをすれば余裕ある人生が送れる」。そう考える人は意外と多いようです。50代までに一定の資産を作り、運用をしながら生活費を抑えつつ生活すれば、労働せず生きていくことができる――そんなFIREの夢とセットで捉えることが多い「地方への移住」。たしかに、海や山が近い場所に居を構え、SUVに乗り、サーフィンや釣り、スキーや温泉巡りなど楽しそうな生活が簡単にイメージできます。東京都心でビジネスと投資を必死に頑張ってきたのだから、第二の人生は田舎暮らしでストレスフリーを極めたい……そんな夢もいいもの。しかし実態はそう簡単ではないかもしれません。東京から東北地方へ移住した夫婦の事例から、地方の実態に迫ります。※個人の特定を防ぐため、事例は一部脚色しています。
「ご近所は“家と車だけ”が立派な方ばかりでした」地方移住10年、資産1.6億円の60歳FIRE夫が漏らした本音…温泉・スキーで遊ぶだけ遊び、見切りをつけて東京へ戻った夫婦が〈山手線の内側〉で得た安息 (※画像はイメージです/PIXTA)

資産1.6億円…50歳で決断した、東北地方へのFIRE移住

<事例>

夫Kさん 現在60歳 大手IT企業を退職

妻Rさん 現在56歳 主婦

 

10年前、夫Kさんは50歳を迎えるとき、長年勤務したIT企業を早期退職しました。役員であったため退職金が5,000万円だったことと、預金が6,000万円、さらに勤務先の自社株の配当が年間約400万円あること、自宅マンションが5,000万円で売れる見込みがあったことから、早期退職を決意したのです。

 

あまり贅沢をするタイプではないため、生活費を年間400万円以下にすれば、退職金を含めた手持ち資産が目減りすることなく安全に生きていけると考えました。そのためには地方移住がいいのではないかと妻に相談を持ち掛けます。

 

夫Kさんも妻Rさんも東京都心の育ちですが、夫Kさんは大学生のときに、日本酒の杜氏(とうじ)になることを夢見ていたほど、田舎暮らしに憧れがありました。特に、北陸地方や長野、東北地方や北海道への憧れが強かったようです。妻も賛同してくれて、Kさんの退職後、子供がいなかったこともあり夫婦はすぐに移住を実行に移しました。

 

いくつか候補はありましたが、最終的に決めたのは、北東北地方の人口25万人の都市でした。いわゆる「山あいの集落」や「海辺の漁村」など、田舎暮らしのイメージままの場所を選ばなかったのは、閉鎖的な雰囲気と人間関係で苦労して移住に失敗した友人がいたからです。

 

そのため、地方とはいえ人間関係が希薄な地方の都市を基点にして生活しようと考えました。不動産会社を回り、築25年の延床面積50坪の広い家を借りることに。家賃は10万円。東京の都心でこの広さの物件を借りたら、家賃は30万円近くするでしょう。

 

地方というと、なにもない不便な田舎を想像しがちですが、夫Kさんは物件を探している際にその利便性が決して悪くないと思えました。コンビニはあまり利用しないけれど徒歩圏内に3店舗、スーパーは2店舗、車で少し走れば大きな総合病院があり、ドラッグストアやホームセンターまで……。「十分便利な場所よね」と妻Rさんは気に入った様子。その家を基点に、夫婦で趣味の温泉巡りやスキーを楽しもうとはしゃぎます。利便性を犠牲にせず田舎暮らしを楽しむという「現実的な田舎暮らし」アイデアは悪くないと思いました。

 

仕事は完全にリタイアしようと考えていましたが、現役時代の知人を通して現地の高校の先生と知り合い、学校でIT関係の講義をすることに。評判を呼び、複数の学校や市民講座などで定期的に講義するようにもなりました。まったく負担感なく、若い学生たちと話をすることが増え、むしろ気分転換にちょうどいい仕事です。50歳で引退したことを話すと、子供たちが口を揃えて「かっこいい」と感嘆するのが面白いのと同時に、昔と感覚が違うんだなと痛感しました。