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「稼がなければ返せない」…奨学金が決定づけた職業選択
東京の私立大学の経済学部で金融論を専攻した。当初は受動的だった学びも、次第に主体的なものへと変わっていく。実家から通いながらアルバイトで生活費を工面しつつ、奨学金から約2万円を生活費に回し、残りを学費に充てた。
就職活動では、金融機関を志望した。返済を見据え、安定して稼げる職に就く必要があると考えたためだ。
「金融機関の一般職は給与水準が低く、それではダメだと思った。総合職しか受けませんでした」
Aさんは「稼ぐこと」を至上命題とし、金融機関の総合職としてキャリアをスタートさせた。安定と高年収を優先した合理的な選択であったが、その生活は過酷だった。飲み会や会食は日常的で、顧客対応のために身だしなみも厳しく求められる。スーツや交際費といった「仕事を続けるための支出」が、収入を侵食していく。一定の収入を得ながらも貯蓄は思うように進まない。そこに毎月1万6,000円の奨学金返済が加わり、家計は圧迫されていった。
年収を上げても拭えない、資産形成への焦燥
Aさんが選んだのは、支出を削る「節約」ではなく、自らの市場価値を高めて「稼ぐ」戦略だった。
社会人2年目から一人暮らしを始め、独身のままキャリアを重ねてきた。職種を軸に業界を変える転職を繰り返し、専門性を高めながら経験を広げてきたことで、年収は着実に上がっていった。その延長線上で、働き方の選択肢を広げるために現在はフリーランスとしてPR業務に取り組んでいる。さらに、より安定的な収入基盤を見据え、会社員への復帰も視野に入れながら転職活動を進めている。奨学金の返済は続いているが、早期に完済したいという思いは変わらない。
しかし39歳となったいま、Aさんはこれまでにない壁にぶつかっている。
「そろそろ家を買いたいんです。でも、思っていたより貯金ができていなくて……」
独身である以上、住まいに関する意思決定はすべて自分の責任となる。しかし、長年にわたる奨学金の返済と、高年収を維持するためのコストが、資産形成のスピードを鈍らせてきた事実は否定できない。
「いまの収入は大学に行っていなかったら築けなかったもの。でも、住宅ローンを組むのも、また借金かと感じてしまう。奨学金が残っている状態で踏み切るのも気が引けるし、先に返し終えたほうがいいのかとも思うが、それを待っていたら時間がない」
完済すれば毎月1万6,000円が浮く。しかし、奨学金という負債は、単に口座から金が引き落とされるだけのものではない。人生の重要な局面において、決断のタイミングを遅らせ、選択肢を間接的に狭め続けるのだ。