56歳のときに早期退職優遇制度を利用し、会社員生活にピリオドを打ったKさん(75歳)。手にした割増退職金1,800万円と貯金2,200万円を頼りに、その後は週4日の午前中だけ無理なく働き、62歳からは年金を繰上げ受給する道を選びました。同世代が定年まで身を粉にして働くなか、あえて収入減を受け入れて「自分の好きな仕事」を楽しむ12年間を手に入れた、70代男性の事例を紹介します。
「もし定年まで働いていたら…」割増退職金1,800万円と貯金2,200万円を手に、56歳で早期退職。年金「繰り上げ受給」で送る“後悔なき老後” (※写真はイメージです/PIXTA)

56歳で早期退職し、午前中だけのアルバイト生活へ

「56歳のときに会社の早期退職優遇制度に手を挙げました。もし定年まで働いていたら、もっとお金に余裕があったでしょう。でも、私にとってはこの選択が正解でした」

 

Kさん(75歳)は、当時を振り返ります。約20年前、不況の影響で多くの企業が人員削減を進めており、Kさんの会社でも早期退職の募集をしていました。

 

中間管理職としての責任感に耐えつつも、心身ともに限界を感じていた時期。会社から提示された割増退職金1,800万円と、現役時代から貯めてきた預貯金2,200万円がKさんの背中を押しました。

 

「退職後は週に4日、ずっと興味のあった地域の図書館で午前中だけアルバイトをして暮らしていました。お金のためというよりは、社会とのつながりを持つのが目的でした」

 

仕事のストレスを抱える日々から一転、大好きな本に囲まれながら利用者と会話を楽しむ日々。無理のないペースで働きながら、62歳になったタイミングで年金の繰り上げ受給を開始しました。

 

「繰り上げによって年金受給額は少し減ってしまいましたが、アルバイト代と年金を組み合わせることで、手元にある合計4,000万円の資産をいっさい減らすことなく生活を回すことができたんです」

 

体力的なことも考えてアルバイトは68歳で辞めたそうですが、図書館での仕事が本当に楽しく、現役時代とは大違いだったと語ります。

お金よりも好きなことを優先した12年間

「もし我慢して会社員を続けていれば、役職手当や満額の退職金で、金銭的にはもっと豊かでした。でも、お金よりも好きな仕事を楽しくできた12年間のほうが、私にとっては幸せでした」

 

経済的な合理性よりも、人生の充実度を優先したKさんの選択。同世代の友人たちが定年後も再雇用で不満を漏らしながら働き続ける姿を見るにつけ、自分の決断は間違っていなかったと確信しているそうです。

 

しかし、Kさんはこの悠々自適な生活が自分一人の力で成し遂げられたものだとは思っていませんでした。

 

「こんな自分勝手ともいえる生活が実現できたのは、ひとえに共働きだった妻の深い理解があったからです。もし私が1馬力で家族を養わなければならない状況だったら、途中でリタイアするなんて絶対に無理でした」

 

Kさんの「辞めたい」という決断を受け入れ、ともに家計を支えてくれた奥様は、残念ながら昨年、病気で他界してしまいました。

 

「妻には今でも感謝しかありません。彼女のおかげで、私は最高のセカンドライフをスタートさせることができたんですから」

 

居間に置かれた仏壇に手を合わせながら語るKさんの目には、今は亡き妻への愛情と感謝の念が宿っていました。