安定した収入があり、家計を支えてくれる「独身の子」との同居は、一見すると理想的な老後生活に見えます。しかし、親が後期高齢者に差し掛かる時期、その平穏な日常に潜むリスクが表面化……ある親子のケースから、将来どのような影響があるのかを考えていきます。
「いつまでいるんだろう…」生活費15万円を入れてくれる45歳の孝行息子。70代親がふと抱いた「平穏な共倒れ」の恐怖 (※写真はイメージです/PIXTA)

生まれて一度も実家を出たことがない45歳息子

千葉県に住む田中節子さん(73歳・仮名)は、長男の和也さん(45歳・仮名)と夫との3人で暮らしています。地元の物流会社で課長職を務める和也さん。生まれてからずっと生活圏が変わらないため、一度も実家から出たことはないといいます。

 

「息子は本当に手がかからない子でした。今も毎月15万円も家に入れてくれますし、週末には車で私や主人の買い物に付き合ってくれます。力仕事も進んでやってくれるので、近所の方からは『いい息子さんね』といつも羨ましがられます」

 

孝行息子との同居は、周囲の同年代から羨望の眼差しを向けられることもしばしば。もうすぐ後期高齢者になる田中さん夫婦にとって、和也さんの存在は頼もしい限りでした。しかし、節子さんの心境は、数カ月前に行われた親戚の法事を境に一変したといいます。

 

「従姉妹から『和也くんがいれば老後は安泰ね。でも、彼自身の老後は大丈夫なの? 私たちがいなくなったあと、彼は一人でこの広い家を守れるのかしら』と言われたんです。そのとき、急に不安になったんです」

 

それまで節子さんは、和也さんがいてくれる安心感(と便利さ)に甘えていました。しかし、指摘を受けて冷静に振り返ると、和也さんは自分で洗濯機を回したことも、公共料金の振込先を知ることもありません。食事はすべて節子さんが用意し、家の中の細かな管理も親任せです。

 

「息子が15万円も入れてくれるから、私たちは贅沢な暮らしができています。しかし一人暮らしをしたことのない息子は、生活力があるかといえば、ほぼゼロに近いと思うんですよね。お金で解決できればいいのですが、お金持ちというわけではないですし。私たちに何かあったら、息子も立ち行かなくなってしまう――そんな不安でいっぱいになり、またそんな人間にさせてしまったのは私たちのせいだと、申し訳ない気持ちで胸が締め付けられます」

 

和也さんは仕事から帰ると、節子さんの作った夕食を「おいしい」と、感謝の気持ちをきちんと伝えてくれる――その穏やかな光景を見るたびに幸せな気持ちになっていましたが、今では「いつまでここにいるんだろう」という問いを飲み込むようになりました。

 

「私たちに何かあったときのために家事などを教えたらいいのか、それともこの家を出て一人暮らしをさせたほうがいいのか。息子もいい大人ですから、私たちが何か言うのも違う気がして……」