(※写真はイメージです/PIXTA)
穏やかな定年の夜、突然の「懺悔」
都内の中堅メーカーで営業部長として勤め上げたテツヤさん(仮名/60歳)は、無事に定年退職の日を迎えました。退職金は2,100万円。妻のユキさん(仮名/58歳)は、結婚以来30年近く専業主婦として家事と育児をこなし、仕事一筋で亭主関白気味だった夫を支え続けてきました。
退職祝いの夕食を終え、自宅で夫婦二人、お酒を飲んでいたときのことです。テツヤさんが、急に居住まいを正し、神妙な面持ちで口を開きました。
「ユキ、これからの第二の人生を始める前に、どうしてもお前に謝っておかなければならないことがあるんだ」
テツヤさんの口から出たのは、耳を疑うような言葉でした。
「実は、5年前の大阪出張の夜……取引先の女性と、一度だけ間違いを起こしてしまった。本当にそのときだけで、すぐに関係は終わったんだが、ずっと罪悪感に苛まれていた。隠し事をしたまま老後を迎えるのはお前に申し訳なくて……すまない」
頭を深く下げる夫を見て、ユキさんは全身の血の気が引くのを感じました。5年前といえば、テツヤさんが仕事の重圧でピリピリしており、ユキさんが献身的に健康面をサポートしていた時期。その裏で、夫はほかの女性と関係を持っていたのです。
「熟年離婚」が頭をよぎるが…
ユキさんの頭の中には「離婚」の二文字が鮮明に浮かびました。退職金2,100万円のうち半分の1,050万円と、自宅マンションの売却益、夫の厚生年金の半分、そして慰謝料を受け取ることができるでしょう。
しかし、ユキさんは怒りで震える手を隠し、冷静に頭を回しました。
(いま離婚して、私は幸せになれるの?)
確かにまとまったお金は手に入りますが、人生100年時代、58歳の専業主婦がこれから一人で生きていくには、老後資金としては心許ない額です。パートに出るにしても体力的な不安があります。しかし、ユキさんが離婚を踏みとどまった最大の理由はお金だけではありませんでした。
目の前で告白して少しスッキリしたような表情を微かに浮かべ、自己満足の懺悔に浸っている夫。30年間、「メシ、風呂、寝る」で家事一つしなかった夫が、いまは罪悪感で縮こまっています。ユキさんは気づいたのです。「この告白は、これからの老後、夫への『最強の切り札』になる」と。