共働き世帯の増加に伴い、夫婦二人で高額な住宅ローンを組む「ペアローン」が普及しています。しかし、この仕組みは離婚というリスクを想定して設計されていません。別居や離婚が決まった際、物件の売却価格がローン残高を下回れば、家を売ることもできず、多額の債務が個人の再起を阻む重い負担となります。ある男性のケースを見ていきます。
家さえ買わなければ、こんなに泣くことはなかったのに…7,000万円の家が50歳サラリーマンを縛る「ペアローン離婚」の残酷な現実 (※写真はイメージです/PIXTA)

「共働きなら返せる」…そう信じて組んだ7,000万円のペアローン

「このリビング、広すぎるんですよ。一人で座っていると、自分の呼吸音まで響くようで……」

 

都内のIT企業に勤務する佐藤健一さん(50歳・仮名)。彼が2年前に失ったものは、妻(41歳)だけではありません。「人生の選択肢そのものだった気がします」と語ります。

 

5年前、佐藤さんは都内近郊に7,000万円の新築戸建てを購入しました。妻は広告代理店勤務。共働きで、世帯年収はおよそ1,500万円ありました。

 

「住宅展示場を回っているうちに、“今なら買えるんじゃないか”と思ってしまったんです」

 

銀行の担当者からは「お二人の収入なら問題なく返済できますよ」と背中を押されました。二人が選んだのは、それぞれが住宅ローンを組む「ペアローン」。夫婦がそれぞれ3,500万円ずつ借り入れ、互いに連帯保証人になる形でした。変動金利で35年返済。月々の返済額は合計で約20万円。当時の二人にとって、決して無理な金額ではないように思えました。

 

「子どもはまだいませんでしたが、将来を考えて部屋も用意したんです。『ここが子ども部屋かな』なんて、図面を見ながら話していました」

 

しかし、その「普通の未来」は長く続きませんでした。家に住み始めてから3年ほどが経ったころ、夫婦関係は急速に冷え込んでいきます。妻は子どもを望んでいましたが、仕事が忙しい佐藤さんは「もう少し落ち着いてからでもいいのではないか」と考えていたといいます。将来の家族像をめぐる温度差は、次第に二人の間に溝を作っていきました。そしてついに離婚を切り出されます。

 

「正直、頭が真っ白でした。でも、もっと現実的な問題がすぐに出てきた。家と住宅ローンです」

 

離婚後、妻は家を出ました。しかし、住宅ローンは消えません。ペアローンの場合、離婚してもそれぞれの返済義務はそのまま残ります。

 

「とにかく売ってしまおうと思ったんです。リセットしたかった」

 

佐藤さんは不動産会社に査定を依頼しました。しかし提示された金額を見て、愕然とします。査定額は約5,500万円。購入からまだ数年しか経っていないにもかかわらず、住宅の価値は大きく下がっていました。仲介手数料などを引くと、ローン残高に届かない、いわゆる“オーバーローン”でした。

 

住宅ローンの残高は、二人合わせて6,000万円以上。通常の売却では、足りない数百万円を現金で用意しなければならないと説明されました。売ることもできず、かといって簡単にローンを整理する方法も見つからない――。任意売却という方法もあると不動産会社から説明を受けましたが、売却後も借金が残る可能性があると聞き、すぐには決断できなかったといいます。

 

結局、佐藤さんは今もその家に住み続けています。住宅ローンに加え、固定資産税や修繕費などの維持費を合わせると、住居関連の支出は毎月30万円近くにのぼります。手取り収入の半分以上が、家のために消えていきます。

 

「50歳を過ぎて、もう転職も簡単じゃない。仕事を辞めることもできない。ローンがある限り、働き続けるしかないんです」

 

廊下の奥にあるドアの先。そこには、ほとんど使われたことのない6畳の部屋があります。妻は子どもを強く望んでいました。「その気持ちに、もう少し応えることができたら……」と後悔ばかりがあふれるといいます。

 

「あのとき、家さえ買わなければ。もっと身軽にやり直せたんじゃないかって」