長年耐え忍んだ末に決断した熟年離婚。老後の支えとなる年金は、分割制度によって公平に分けられると考えられがちです。しかし、そこには専門家でも見落としがちな、受給のタイミングにまつわる「制度の死角」が潜んでいます。期待していた上乗せ分が突如消えてしまう、知っておくべき支給要件の落とし穴を解説します。
積年の恨みでモラハラ夫と離婚した65歳女性「年金13万円」に加算されるはずが、日本年金機構「あなたは対象外です」と非情な通知…振替加算の思わぬ落とし穴 (※写真はイメージです/PIXTA)

年金分割の「死角」と振替加算の受給要件

離婚時の年金分割は、婚姻期間中の厚生年金記録を分かち合う制度ですが、これには「振替加算」が含まれないという大きな落とし穴があります。振替加算とは、大正15年から昭和41年4月1日までに生まれた配偶者に認められる、いわば「専業主婦への経過措置」としての加算です。

 

この受給権を確定させるためには、妻が65歳に達した時点で「配偶者の加給年金の対象となっている配偶者であること(=婚姻関係および生計維持関係があること)」が絶対条件となります。

 

厚生労働省『令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、国民年金(老齢基礎年金)受給者のうち、女性の平均年金月額は5万7582円です。振替加算の額は生年月日により異なりますが、和子さんのようなケースでは、この加算の有無が生活水準に直結します。

 

離婚届を「65歳の誕生日」より前に提出すると、この生計維持関係が法的に断絶されるため、生涯にわたる加算の権利が消滅します。内閣府『令和6年版 男女共同参画白書』によれば、65歳以上の単身女性の相対的貧困率は20.2%と、男性(14.7%)を大きく上回る深刻な状況にあります。

 

年金分割によって報酬比例部分の半分を手にしたとしても、振替加算のような「世帯単位の加算」がなくなることで、当初のシミュレーションを大幅に下回る受給額となるリスクは看過できません。

 

金融経済教育推進機構『家計の金融行動に関する世論調査 2025年』によると、老後に対して不安を感じている割合はすでに老後を迎えた人たち(60代、70代)でも7割に達します。離婚という選択が、感情的な解放をもたらす一方で、公的扶助の細かな認定要件によって経済的な困窮を招くという事態は、現行ルールの限界といえるでしょう。