(※写真はイメージです/PIXTA)
足腰が弱ってきた親、いずれは頼ってくれると思っていたが…
木村正雄さん(79歳・仮名)は、埼玉県内の住宅街にある戸建てで、妻の死後10年以上、一人で生活を営んでいました。受給している老齢年金は月額約18万円。日々の暮らしを維持するには十分な金額です。
ただ、高齢の親のひとり暮らしは何かと心配になるもの。長女の佐藤美智子さん(52歳・仮名)は、週に一度の電話と、月に一度の帰省を欠かさず続けてきました。
「お父さん、足腰も弱ってきたし、今後の生活について話し合おう」
美智子さんの提案に対し、正雄さんの返答は常に同じでした。「まだ大丈夫だ。お前たちに負担はかけない」。その言葉を受け、美智子さんは「いずれは自身が実家に呼び寄せるか、近隣の介護施設を共に探すことになるだろう」と考えていたといいます。
状況が一変したのは、昨年秋のこと。美智子さんが実家を訪れると、庭に「売出し中」の看板が設置されていました。室内へ入ると、リビングの家具の大部分は撤去され、梱包済みの段ボール箱が数個置かれているのみです。
「お父さん、これどういうこと? 家を売ったの?」
驚きを隠せない美智子さんに対し、正雄さんは淡々と事実関係を説明します。
「不動産売却の手続きはすべて完了した。来週、都内の施設に転居する。入居一時金は、ここの売却益で支払う計画だ」
正雄さんが契約したのは、手厚い介護サービスが付いているサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)。美智子さんへの相談はなく、契約手続きや身元保証についても、正雄さん自身が専門のコンサルティング会社を通じて完了させていたのです。
「どうして相談してくれなかったの?」と問い詰める美智子さんに対し、正雄さんは手元の通帳と資料を提示しました。
「施設の月額費用は28万円。年金と貯蓄、それに今回の自宅売却費用があるから金銭的な心配はいらない。お前にはお前の生活がある。孫の学費も大変だろう?」
正雄さんはそれ以上語ることなく、美智子さんの返答を待たずに、淡々と荷造りを再開したといいます。