年金を遅らせて受け取ることで受給額が増える「繰下げ受給」。増額という言葉を信じ、5年間も貯金を取り崩して70歳まで受給を我慢した増額狙男さん(仮名・75歳)。しかし、待っていたのは予想外の現実でした。年金が増えたことによって税金や社会保険料の負担が上がり、かえって生活が苦しくなってしまったのです。「普通にもらっておけばよかった……」後悔する、70代男性の事例を紹介します。
普通にもらっておけば…「繰り下げ受給」で〈年金月21万円〉まで増額させた75歳男性の後悔。5年間の無収入を耐えた先に待っていた「まさかの現実」 (※写真はイメージです/PIXTA)

データで見る、「年金繰下げ受給」を選ぶシニアの実態

「年金は繰り下げたほうがお得」という表面的な情報だけを信じてしまうと、増額さんのように思わぬ落とし穴にハマることがあります。

 

厚生労働省の規定によれば、75歳以上の後期高齢者医療制度において、年金収入等の合計が一定の基準を満たすと、医療費の窓口負担が2割や3割に引き上げられます。年金受給額を増やすことでこのボーダーラインを突破してしまい、結果的に手取り額や生活費の負担が逆転してしまうケースがあるのです。

 

こうした税負担や社会保険料の増加リスクを冷静に計算しているシニアは少なくありません。厚生労働省が発表した「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によれば、実際に繰下げ受給を選択している人の割合は、全体の受給権者で見ると厚生年金で1.9%、国民年金で2.4%にとどまっています。さらに、70歳時点の受給権者に絞って見ても、厚生年金で4.2%、国民年金で5.5%と、ごく一部に過ぎません。

 

制度上は最大84%増額されるメリットが強調されがちです。しかし、大半のシニアは、65歳で手堅く受け取る選択をしているのが実態です。手取り額の逆転現象や健康寿命を現実的に見極めていることがうかがえます。

 

[参考資料]

厚生労働省「後期高齢者医療における窓口負担割合の見直しについて」

厚生労働省「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」