親の死や病気をきっかけに、夫婦間で「親との同居」や「介護」をめぐる意見の対立が起きるケースは少なくありません。特に義親との同居は、生活水準の変化や家事・介護負担の偏りへの不安から、夫婦の決定的な亀裂や離婚の引き金になることもあります。そうしたなか、住環境や子どもの学校事情などを理由に「離婚後も同居を続ける」という選択をする家庭も存在しますが、安易な決断には思わぬリスクが潜んでいます。本記事では、義母との同居を拒否した結果、夫から「離婚後同居」を提案された妻の事例をもとに、そこに隠された夫の経済的な思惑と、いよいよ来月(2026年4月1日)に施行が迫った民法改正を踏まえた注意点について解説します。(※登場する人物はすべて仮名です)
「離婚後も一緒に住もう」…月収54万円の41歳夫に三行半を突き付けられた月収38万円の39歳女性、夫が隠していた〈真の狙い〉 (※写真はイメージです/PIXTA)

離婚後も一緒に住もう…夫の「不可解な提案」に妻、唖然

義母とユウタロウさんは仲がよく、結婚後も2人でしばしば出かけることも。一方で、長年専業主婦だった義母は家事に対する理想が高く、サトミさんに対してなにかと干渉的な態度をとります。

 

はじめのころは夫に愚痴をこぼすこともありましたが、「母さんは心配していってくれてるんだよ」「考えすぎじゃない?」などといつでも義母の味方をする夫に、しだいに口をつむぐように。そんな義母と同居することになったら……。家事も精神的負担も、いま以上にサトミさんたった1人にのしかかることは目にみえています。それに、ゆくゆくは義母の介護もすべて一人で任せられるかもしれません。

 

「……ごめんなさい。ちょっと考えたい」

 

「え、嫌なの? 嫌ならなんで嫌なのかはっきりいってほしいんだけど」

 

「正直、ちょっと不安があって。申し訳ないけど、お義母さんと一緒に暮らすことは考えられない。ミオとユウタロウさんとの暮らしを守りたい」

 

すると、ユウタロウさんはため息をついていいました。

 

「……なるほどね。じゃあ、離婚しよっか。俺は母さんを1人にしておくわけにはいかないし」

 

「え?」

 

「あ、でも、ここにはいていいよ。家探すのも大変だろうし。ミオもまだ中1だし、転校ってなるといろいろ大変だろ?」

 

夫の身勝手な言い分に、サトミさんは開いた口がふさがりません。

 

「そうなると、この家の持ち分も整理しなきゃだよな。申し訳ないけど俺は母さんと住みたいから、サトミの持ち分は俺が買い取るよ。それが『財産分与』ってことで。いいよね? 離婚後も一緒に住もう。しばらくはいままでどおり3人で暮らそう。生活は変えなくていいから」

「離婚後同居」のしくみと注意点

夫からの唐突な離婚の申し出に困惑するサトミさん。その一方で、長年の我慢は限界に達し、離婚そのものについては前向きに考えています。

 

「離婚するのに、同じ家で暮らし続けるなんてあり得るの?」と疑問に思うサトミさんですが、今回のケースのように夫婦の価値観の違いや親の介護問題がきっかけで離婚が話題に上る一方で、住まいや子どもの環境をすぐに変えられない家庭もあります。そんなときに検討されるのが「離婚後同居」という選択肢です。

 

しかし、「離婚後同居」には、婚姻中の同居とは異なる決定的な違いとリスクが存在します。

 

1.親権のルールが変わる(2026年4月施行の改正法)

これまでの民法では、離婚後は父母の一方のみを親権者と定めなければなりませんでした。しかし、2026年4月1日に施行される改正法により、父母の離婚後の親権者の定めの選択肢が広がり、離婚後の父母双方を親権者と定めることができるようになります。今回の改正により、離婚後は、共同親権の定めをすることも、単独親権の定めをすることもできるようになります。仮に同じ家で暮らし続けるとしても、離婚届を出す以上は今後の親権をどうするか、改正法を踏まえたシビアな話し合いが必要です。

 

2.税金が高くなる可能性も

婚姻中に適用される「配偶者控除」は、離婚すると受けられません。サトミさんの場合は収入が高いため、そもそも受け取っていませんでした。ちなみに、事実婚状態でも控除は不可です。また、子どもの控除も親権者側に移るため、夫婦によっては夫の税額が大きく増えるケースもあります。

 

3.生活費を請求できなくなる

婚姻中の夫婦には、収入に応じてお互いの生活を支え合う「相互扶助義務」があります。しかし、離婚すればこの義務は消滅するため、法的に生活費を請求することができなくなります。サトミさんがこれまでどおり家事をすべて負担したとしても、それは単なる「無償のボランティア」になってしまいます。配偶者控除などの税制上の優遇措置も受けられなくなります。

 

4.財産分与が「脱税」とみなされる恐れ

さらに注意すべきは、夫が口にした「財産分与」です。原則として夫婦間の財産分与に贈与税はかかりません。しかし、「夫婦の生活実態がなんら変わらず婚姻を継続する意思があるのに、課税や債権者からの追及を逃れるため一方の資産を他方配偶者に帰属させる目的で離婚届を提出」した場合は偽装離婚とみなされ、無税での財産分与が脱税と判断される恐れがあります。加算税や刑事罰の対象になるケースもあるため非常に危険です。

透けてみえた、夫の本当の狙い

ただし、元夫婦が長期間同居し続けるのは不自然とも判断されやすく、いずれどちらかが独立するのが一般的です。

 

「母と同居したい。けれど、妻には家事を続けてもらいたい」……そんな夫の本当の狙いが透けてみえ、サトミさんの心身は限界を迎えています。

 

「そんなうまい話、あるわけないじゃない……」2人は現在、離婚調停を進めているところです。

 

離婚後同居は、一見すると波風を立てない解決策にもみえますが、多くの場合、立場の弱い側が法的な保護を失う結果を招きます。情だけに流されず、正しい知識で自分と子どもを守る決断が求められます。