老後の住まい選びにおいて、利便性の高い都市部と、自然豊かな地方のどちらが最適かは一概にはいえません。ある親子のケースを通じ、安心できる「終の棲家」の条件を考えます。
70代両親「住み慣れたタワマン」を売って地方移住に、45歳息子が猛反対……3カ月後、「別人と化した2人」に驚愕したワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

「地方移住」を頭ごなしに反対したが……

「正直、父や母が何を考えているのかわかりませんでした。なぜ便利な東京を離れるのか……」

 

都内メーカーで働く加藤泰三さん(45歳・仮名)は、父・幸一郎さん(70歳・仮名)と母・良子さん(68歳・仮名)の決断を振り返ります。その決断とは「地方移住」でした。移住先は東京から新幹線を利用して1時間半ほどの雪深い地域。老後の住まいとしては不便だと、泰三さんは猛反対しました。

 

「雪深いうえに、車がないと不便な場所ですよ。今はまだ運転できても、免許返納の時期が来たらどうやって暮らしていくのか。わざわざ便利な東京から引っ越すなんて、意味がわかりません」

 

幸一郎さんが住み替えを決意したのは、都会の喧騒から離れたいという思いからでした。駅チカですべてが近所で完結する暮らしは、確かに便利です。しかし就職のため上京して50年弱。常に漂う都会の慌ただしさに「ちょっと疲れました」と幸一郎さんは語ります。人生の終焉を見据え、故郷に近い自然豊かな環境に身を置きたいと考えるようになったのです。

 

「両親の気持ちはわかります。私だって都会の生活に疲れることはありますから。しかし、田舎の暮らしは大変です。どうせ音を上げて東京に戻ってくるだろうと思っていました」

 

双方の歩み寄りがみられないまま、移住から3カ月。泰三さんは様子を見に現地へ向かいました。しかし、新幹線と鈍行列車を乗り継いで着いた最寄り駅で、衝撃的な光景を目にします。

 

「改札の向こうに、姿勢良く立っている男性がいたんです。一瞬、誰だかわかりませんでした。東京にいた頃は膝の痛みをかばって猫背気味に歩いていた父が、まるで現役時代のような凛とした佇まいで、私に手を振っていたんです」

 

さらに驚いたのは、その街並みでした。実家までの道のりは平坦で歩道が広く、駅近の大型スーパーでは生活に必要なものはあらかた揃いそうです。役所やドクターヘリを受け入れる病院も徒歩圏内。住宅地や公共・医療サービス、商業施設が1カ所に集まり、車があれば便利ではあるものの、なくても生活が成り立たないわけではありません。

 

「ここでの暮らしは快適だよ。ただ暮らしているだけで適度な運動になるし、街を外れれば大自然が広がる。心も体も健康そのものだよ」

 

ハツラツと話す父の姿に、泰三さんは衝撃を受けました。東京のタワーマンションに暮らしていたときは、ロビーに降りるのさえ億劫がっていたのに、ここでは「自然と散歩に出たくなる」といいます。また、町には外出支援など高齢者の生活サポートも充実していました。

 

「都会でないと老後は不便だというのは、私の凝り固まった価値観でしかなかったようです」