(※写真はイメージです/PIXTA)
久しぶりに会った母の異変
「銀行なんて信用できない。手元に置いておくのが一番安全なんだから」
地方で一人暮らしをしていた母・アキさん(仮名/79歳)の口癖でした。昭和の激動期を生き抜き、無駄遣いをせずにコツコツと貯め込んだ現金、総額1,000万円。アキさんはそれを自宅の奥深くに厳重に隠し、自分の「絶対的な命綱」として誇りにしていました。しかし、その頑ななまでの“タンス預金信仰”が、取り返しのつかない悲劇を招くことになります。
異変に気づいたのは、数ヵ月ぶりに実家を訪ねた息子のタモツさん(仮名/51歳)でした。普段なら綺麗に片付いているはずの居間には、食べかけのパンや畳んでいない洗濯物が散乱しています。不穏な空気を察したタモツさんが奥の和室を覗くと、そこには息を呑む光景が広がっていました。
母親のアキさんが、白髪交じりの髪を振り乱し、険しい形相でずっと使っていなかった大きな旅行用カバンに「なにか」をむしりとるようにして詰め込んでいたのです。「お母さん! なにやってるんだよ!」タモツさんの声にビクッと肩を震わせたアキさんは、カバンを抱え込むようにして叫びました。
「みちゃダメ! これは私の大事なお金! 早く隠さないと、政府の人間が来て全部没収されちゃうのよ!」
タモツさんがカバンを母から奪い取り、中身をぶちまけました。しかし、そこから溢れ出てきたのは、アキさんが誇っていた「1万円札の束」ではありませんでした。入っていたのは、お札のサイズに雑にカットされた、大量の「ただの茶色い更紙」と、意味不明なロゴが印刷された「資産保全預かり証」と書かれた数枚の紙切れ。本物の1,000万円は、跡形もなく消えていたのです。