親の資産を「いつか相続するもの」と頼りにしている子世代は少なくありません。しかし親が抱く覚悟と、子が描く皮算用には大きな溝が……。ある父子のケースを見ていきます。
「親の金をあてにするな!」年金月20万円・78歳父が大激怒。「冷たい親だ」と拗ねた52歳長男…ある日、目にした「貯金通帳」の中身に絶句したワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

「親の資産は俺のもの」という過信

都内の中堅商社に勤務する佐藤健一さん(52歳・仮名)。年収は、額面で約850万円。世間的には大卒サラリーマンの平均といった水準ですが、生活に余裕はありません。大学生の長男と長女の学費に加え、都内に構えたマンションの住宅ローンが重くのしかかり、手元に残る貯蓄はわずか300万円ほど。

 

一時期世間を騒がせた「老後資金2000万円不足問題」。この物価高のなか、さらに不足額は増えているというニュースも耳にします。そんなことを考えると、胃が痛む思いでした。

 

そんな健一さんの心の拠り所は、実家の父・佐藤正夫さん(78歳・仮名)の存在でした。正夫さんは現役時代、大手銀行で働き、定年時もかなりの退職金を手にしたはず。質素な暮らしぶりから見ても、「数千万円、いや億に近い資産があるのでは」と健一さんは密かに期待していました。

 

事態が急転したのは、昨年の正月でした。実家で酒を酌み交わしている際、健一さんが自身の教育費の負担をぼやきつつ、つい「親父もこれからの管理が大変だろうし、早めに財産を整理しておこうか。俺が手伝うよ」と切り出したときのことです。

 

穏やかだった正夫さんの表情が一変しました。

 

「健一、勘違いするな。親の金をあてにするな!」

 

地鳴りのような声に、居間の空気は凍りつきました。それ以来、健一さんと正夫さんの間には深い溝ができました。健一さんは「冷たい父親だ。お金があるのだから、少しは助けてくれてもいいのに」と憤り、実家に顔を出すこともなくなりました。しかし半年後、正夫さんが軽度の脳梗塞で入院したことをきっかけに、事態は動きます。

 

退院後の生活を相談するなかで、正夫さんは「お前たちに介護の負担はかけたくない。施設に入る」と断言しました。健一さんも共働きで、自宅介護は現実的に不可能です。納得して手続きを進めるなか、健一さんは父から財産目録と通帳を預かり、言葉を失くすことに。

 

「これだけか……?」

 

通帳の残高は、3000万円ほど。一般的には高額ですが、元銀行員の父の経歴からすれば拍子抜けするほど少ない額でした。健一さんは慌てて、検討していた介護付有料老人ホームの費用を計算しました。

 

入居一時金で1000万円が消え、月額の利用料が管理費込みで25万円。正夫さんの年金受給額は月20万円。月額費用に含まれない雑費も考えると、月10万円程度の取り崩しが発生するでしょう。そう考えると、3000万円は、15〜20年ほどで底を突く計算です。

 

「親父、あんなに稼いでいたのに、なんで……」

 

通帳を遡ると、かつてあった多額の資産は、数年前に亡くなった母の長期入院費用や、実家のバリアフリー改修、そして正夫さん自身の「自立した老後」を守るための保険料に消えていたことが判明しました。健一さんは、自分の身勝手な皮算用を恥じたといいます。

 

「私は父だけが頼りだと思っていましたが、父は子どもには迷惑をかけない・かけたくないと考えていた。50にもなって、親離れできていない自分を思い知りました」