十分な貯蓄があり、経済的な不安とは無縁の生活を送れるはず――。それでも、仕事を続ける高齢者が増えています。ある男性のケースから、第二の人生における「働き方」について考えていきます。
「退職金3,000万円・貯金5,000万円」でも働く…67歳元営業部長が選んだ「時給1,100円の清掃バイト」の納得の理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

収入以外の理由を求める、年金世代の働き方

松本さんのようなケースは、今のシニア世代の働き方として、ひとつの現実的な選択肢になっています。

 

内閣府『令和7年版高齢社会白書』によると、65歳~69歳の男性の就業率は54.9%と半数を超えています。現在働いている60歳以上の就業理由(複数回答)を見ると、「収入のため」が55.1%で最多ですが、年齢が上がるにつれて理由は多様化する傾向があります。

 

特に年金受給が始まる世代では、「働くのは体によいから、老化を防ぐから(25.3%)」や「自分の知識・能力を生かせるから(15.4%)」といった、金銭以外の動機が大きな割合を占め始めます。

 

また、独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)などの調査においても、シニア層が再就職先に求める条件として「仕事内容のわかりやすさ」や「体力的に無理がないこと」が重視される傾向が明らかになっています。現役時代のような「責任の重さ」や「数字のプレッシャー」を避け、ストレスの少ない環境を求めるニーズが、統計からも見て取れます。

 

実際に現場で働くシニアたちの声を聞くと、以下のようなメリットが共通して語られます。

 

●運動代わりの労働:ジム代わりに体を動かし、副産物としてお小遣いをもらう。

●即時完結型の快感:家に持ち越す業務が一切ない。その日の汚れを落として終わりというシンプルさ。

●無理のない社会参加:家族以外の人間と「挨拶」を交わす程度の、ほどよい距離感。

 

65歳まで組織のために走り抜いた後だからこそ、もう「肩書き」も「責任」もいらない。目の前の床をピカピカにすることに没頭する。そんな日々の繰り返しの中に、現役時代には見えてこなかった新しい人生の彩りが隠れているようです。