十分な貯蓄があり、経済的な不安とは無縁の生活を送れるはず――。それでも、仕事を続ける高齢者が増えています。ある男性のケースから、第二の人生における「働き方」について考えていきます。
「退職金3,000万円・貯金5,000万円」でも働く…67歳元営業部長が選んだ「時給1,100円の清掃バイト」の納得の理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

リタイア後、暇な日々から脱出するために…働くという選択

メーカーで営業部長を務めていた松本さん(67歳・仮名)は、2年前、65歳の再雇用期間が終了すると同時に退職しました。月20万円の年金があり、退職金3,000万円はほぼ手つかずで、預貯金も5,000万円近くあります。生活のために身を粉にして働く必要はない、そう考えてのリタイアでした。

 

「退職して半年は、昼前まで寝たり、テレビを観たりして過ごしていました。でも、毎日それだと逆に体がなまる。かといって、お金を払ってジムに通うのもなんだかなあと」

 

健康づくり、そしてどうせならお金になることとして、体を動かす仕事をしようと始めたのが、自宅から数駅離れたマンションの清掃員でした。

 

「たまたま観た映画の主人公が街の清掃員で、それに興味を惹かれたんですよね」

 

週3日、午前中だけの勤務。時給1,100円。現役時代の報酬とは比べものになりませんが、松本さんにとっては「これくらいがちょうどいい」という感覚でした。しかし、実際に現場で手を動かし始めると、想像もしなかった醍醐味に気づかされます。

 

「現役のころは、常に何かに追われていて、仕事が終わったという感覚がありませんでした。ところが清掃は違います。汚れているエントランスを掃けば、その場で目に見えてきれいになる。ゴミ置き場を整理すれば、その場で仕事が終わる。この『やった分だけ、即座に結果が出る』という手応えが驚くほど新鮮で、清々しかったんです」

 

当初は「知り合いに見られたら……」という自意識もありましたが、黙々と作業に没入していると、周囲の目は気にならなくなりました。それどころか、住民から「いつもきれいにしてくれてありがとう」と声をかけられることに、ダイレクトな喜びを感じると言います。

 

「正直、昔の肩書を引きずっている自分がいました。それなりの会社の部長だったんだという、変なプライドです。しかし、今はそんなことはどうでもいい。仕事して、適度に汗をかいて、心地よい疲れとともに昼前に帰宅する。自分で稼いだ時給で、ちょっといいビールを買って帰る。現役時代には味わったことのない贅沢をしている気がします」