奨学金を借りる際、「親に頼めるか、頼めないか」で、受け取れる金額に格差が生まれることをご存じだろうか。人的保証(親族)を用意できない学生は、機関保証を選ばざるを得ず、毎月の振込額から保証料が天引きされる。最も支援が必要な困窮学生の財布から、資金が抜かれていく矛盾――。本記事では、アクティブアンドカンパニー代表の大野順也氏が、Aさんの事例とともに、「誰にも頼れない」ことが経済的ハンデになってしまう、制度の構造的欠陥について解説する。
農業高校時代、勉強についていけず欠席がちに。不登校を救ってくれた恩師の助言で、北海道の女子高生が17歳で背負った「借金500万円」…大学進学後、ATMで立ちすくんだ「残高1,500円」の恐怖 (※写真はイメージです/PIXTA)

口座残高「1,500円」、先生になるための厳しすぎる道のり

念願の大学進学を果たしたAさん。しかし、入学後に待っていたのは、残酷な「経済格差」と、奨学金を利用する学生特有の「時間的制約」だった。 

 

Aさんが奨学金を申請する際に選択したのは、JASSOの「機関保証制度」である。これは、一定の保証料を支払うことで、保証機関が連帯保証人の役割を担う仕組みだ。そのため、毎月振り込まれる貸与額から、あらかじめ保証料が差し引かれる。Aさんの場合、月12万円の貸与額に対し、実際に口座へ振り込まれるのは約11万円。そのすべてが学費に消えた。日々の生活費や通学定期代、交際費を捻出するため、個別指導塾でのアルバイトに多くの時間を割く日々が始まった。

 

進学した大学には、幼稚園からエスカレーター式で進学するような比較的裕福な家庭の学生が多く、Aさんを取り巻く環境は一変した。日常的な会話のなかで垣間みえる金銭感覚や価値観の違いに、気後れを感じる場面も少なくなかったという。

 

「友人と遊びに行きたくても、常に財布の中身を気にして断らなければならない。それが一番惨めでした」

 

さらに、教職課程の履修は過酷を極めた。教育実習期間中は拘束時間が長く、アルバイトは一切できない。一方で、実習先への交通費や教材費、リクルートスーツの準備など、出費だけがかさんでいく。あるとき、ATMで口座残高が「1,500円」と表示された瞬間、しばらく立ちすくんでしまったという。

 

また、教育実習で取得した単位は卒業単位としては認められないため、人より多くの授業を受ける必要があった。就職活動が本格化すると、面接のために授業を欠席せざるを得ない場面も増え、4年生の後期になった現在も、卒業に必要な単位を取得するために授業を受け続けている。そんな苦労の末、Aさんはこの春から神奈川県の高校で教師としての第一歩を踏み出すことが決まった。

 

だが、就職と同時に始まるのは、毎月2万5,000円の奨学金返済。昨今の金利上昇に伴い、返済総額はさらに増える見込みだ。

 

「新社会人として慣れない生活が始まるなかで、毎月2万5,000円もの大金が引かれるのは、経済的な負担はもちろん、精神的にもかなり憂鬱です。教師という仕事は時間外労働が多く、それに対して残業代が出ないという現実もあります。かつては教職に就けば奨学金の返済が免除される制度があったと聞きましたが、いまはそれもありません。それでも、あのとき憧れた先生のように、生徒に向き合える存在になれるよう、覚悟を決めて頑張ります」

 

そう語る彼女の言葉の端々には、教育現場への強い使命感が滲んでいる。しかし、志を抱いて立つスタートラインで突きつけられた「500万円の負債」は、新社会人が背負うにはあまりに重すぎる。