(※画像はイメージです/PIXTA)
最初のパニック発作
こうした生活のなかの疲労が過度にたまると、わずかな刺激でも体が危険と判断しやすくなります。本来なら何ともない場面でも、体が警報を鳴らしてしまうのです。その違和感を気のせいだと片づけ、水野さんはまた月曜日の朝を迎えます。
水野:25歳になったばかりのころだったと思います。朝起きたときは、いつもより体調が良いと思っていました。しかし、家を出て、駅までのバスのつり革につかまり、窓の外をぼんやり眺めていたとき、胸の奥がドンと跳ねたような気がしたんです。心臓の鼓動が……、どうにもできないほど速くなって……。心臓が暴れるように速く打ち始め、息がうまく吸えなくなりました。このまま、死んじゃうんじゃないかと思ったくらいです。
そのときの状況を思い出したのか、太ももの上で強く握っていた水野さんの手が震え始めたのがわかりました。お母さんはそんな娘の姿に心配そうな表情を浮かべていました。
水野:手足が冷たくなってきて……、視界の周りがぼんやりして、周りのざわめきが遠のいていって。
母親:気づいたときには救急隊員の方から名前を聞かれていたそうです。
広岡:それまで積み重なっていた心身の疲れが、この瞬間に一気に表面化したのだと思います。ぎりぎりまで頑張り続けると、不安や恐怖を感じる脳の部分がとても敏感になり、ふだんなら何でもないはずの通勤バスの中で、発作のスイッチが入ってしまうことがあるのです。
わたしはバスの車内で水野さんの体に起きた症状を「パニック発作」だと考えました。パニック発作とは、日常生活の中で突然、激しい動悸や息苦しさ、めまい、吐き気、手足や唇のしびれなど、自律神経が激しく反応する状態です。視野が急に狭くなったり、床が盛り上がって迫ってくるように感じたり、胸が痛むといった知覚の過敏さを伴うこともあります。
しかし、多くは10〜20分程度で自然におさまります。救急搬送された時点で落ち着いていることも珍しくありません。心電図や胸部レントゲンが「異常なし」となることが多いのも特徴です。問題は、その経験から「また起きるのではないか」という予感がふくらみ、心が先回りして警戒態勢に入ることです。これが「予期不安」です。
水野さんの教師生活もたった一度のパニック発作から崩れていきます。